杉本純のブログ

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インタビュイーの発言の真偽

インタビューの仕事で問題になることの一つに、インタビュイーの発言は事実かどうか、がある。ジャーナリズムであればこの問題は大きいだろうが、そうでなくても、インタビュイーが過去の一般的な事実について記憶を頼りに語ったのなら、それが本当かどうか後から確かめる必要がある。

例えば、ある企業の社員であるインタビュイーが何らかのプロジェクトについて語った時、そのプロジェクト名や実施年月日は正確なところを確かめなくてはならない。好きな書籍や映画のタイトルや、その中の文言を引用した場合なども同じである。

インタビュイーの記憶は当然ながらいつも正確とは限らない。私の経験上でも、発言したことをインタビュー後に確かめてみたら事実と違っていたことが何度もあった。そういう場合は、基本的に正しいことを原稿に書く。

難しいのは、真偽を確かめる資料が容易に手に入らない場合だ。これはインタビューではないが、私はかつて、すでに絶版になっている岩波新書にこんなことが書いてある、とある人がネットで発言したのを確かめようとしたものの、地元の図書館にはないし、神保町にもアマゾンにも古書がないしで困ったことがある。その人は赤の他人なので資料を貸してくれとも言えない。国会図書館に行けば良かったが、たった数行のためにそれだけの時間と手間をかけるのは…と躊躇っていた。結局、神保町の某店にその新書が入荷されたので立ち読みで済ませた。細かい部分の真偽を徹底的に追究していくのはたいへん骨が折れる。

ところで、矢作勝美の『伝記と自伝の方法』(出版ニュース社、1971年)には、堀川直義の『インタビューの研究――その心理学的基礎実験』(朝日新聞調査研究室報告、1952年)によると、インタビュアーの全質問の30〜40%はインタビュイーが知らないことであり、インタビュイーの63%が知らないにも関わらず断定的に答えたそうだ、と書いてある。