杉本純のブログ

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怖いのは人間

山登りが好きだった人から、山の中で一人でいる時に何に遭遇するのが最も怖いか、という話を聞いたことがある。その人は、天気が悪くなったり獣に遭ったりするのも怖いには怖いが、最も怖いのは人間に遭うことだ、と言った。それを聞いた私は、なるほどそうかと思った。それはちと性悪説に寄った考え方だと思うが、たしかに山の中で赤の他人に遭遇したら、何をされるかまったくわからない。まぁもちろん、困っている時なら助けてもらえたりするかも知れない。

人を信用しちゃいけない、というのはいつの時代でもどこでもよく言われることのように思う。私は性悪説にも性善説にも偏り過ぎてはいけないと考えていて、独立自尊、他人の世話にはなりたくないと強く思っているが、おごってくれたり親切にしてくれたりするのをことさら拒むのも、人間関係上では好ましくないと思っている。もちろん、人から親切されても単に喜んで負い目など感じない人もいる。

前置きが長くなったが、山崎元『お金とつきあう7つの原則』(ベストセラーズ、2010年)の冒頭には、お金が怖いとか言うのは正しくなく、怖いのは人間だ、ということが書いてある。

たしかにそうだ。お金というのは使い方を誤ると人生や生活が破綻するし、人を狂わせ、しばしば殺人など犯罪に走らせることもあるので取り扱いには注意しないといけない。けれども、それはやはりお金が怖いのではなく人間が怖いのである。お金は酒や色恋のように人間の理性を破壊し、正常な判断を鈍らせてしまい、時に暴走すらもさせてしまうのだ。

私は酒で失敗したことは多いが、お金で失敗したことはほぼない。というよりも、失敗するほどお金を使っていないし稼いでもいないし、他人に譲ったり譲られたりもしていない。お金について、スケールの小さい人間なのだ。失敗といえば、もう十年以上前、ある人にけっこうな額のお金を貸して返してもらえなかった。その人とは今では絶縁しているが、仲違いの原因は様々であるもののお金を返してもらえなかったことも一部含まれていた。もちろん悪いのは相手なので、私は泣き寝入りするしかなく、ここで私がおかしな行動を取っていたら「怖い」結末になっていたかも知れない。

お金は人間同士の交流や仕事の媒介になる。その点は酒や色恋と同じ役割を持つかも知れない。けれどもお金を通して交流する相手はやはり人間であり、あらゆる人間は自分の感情を完全にコントロールすることはできない。交流の過程で悪い感情がふくらんでしまうと、悪い事態もとうぜん起こるだろう。酒や色恋と同じである。