杉本純のブログ

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アメリカ探偵作家クラブ『ミステリーの書き方』

アメリカ探偵作家クラブ『ミステリーの書き方』(ローレンス・トリート編、講談社文庫、1998年)を読んだ。

アメリカのミステリー作家たちが自分の創作術を披瀝した本で、とにかくためになった。文章の削り方とか、ストーリーの組み立てにおいて大切なのは劇的対立(コンフリクト)だとか、分かっていたがあくまで漠然と思っていた程度だったことを明確に認識できたように思う。全編にわたり実際的に役立つことばかりなので、これからも折に触れてページを開くことになりそう。

さて、本書の解説は池上冬樹が書いているのだが、これが作家志望者に対するわりと手厳しい本音の吐露になっているように感じられ、面白い。冒頭では、日本では空前のミステリーブームが続いている、その中で顕著なのは有力な新人の台頭だろう、として、

そうなるととうぜん各賞が注目され、賞への応募者も急増することになる。これはミステリーに限らず、ほかの文学賞全体について言えることで、小説誌は売れないのに、主催する新人賞の募集を始めると次々に小説が送られてきてびっくりするという。

これは雑誌の実売部数よりも新人賞の応募数の多いということで、色んなところで言われてすでに久しい。ちなみに池上は新人賞の下読みや予選委員として「毎年五百本前後の生原稿を読んでいる」そうだ。

池上はその後、「いかんせん表現そのものが未熟」、「小説の体をなしていないものも散見される」などと書いている。私は上に「手厳しい本音」と書いたが、池上としてはすでに呆れて溜め息ついているような感覚なのかも知れない。

本書の第11章「原稿持ち込みの作法」に言及している箇所では、日本の場合は「狙い目は、新人賞をもたない出版社だろう」と書いている。この解説はもう二十年以上前に書かれたはずだが、私はこの箇所を読むまで、一般的に作品を出版社から出すにはフィクションだろうがノンフィクションだろうがとにかく新人賞を獲るしかないと思っていた。。