杉本純のブログ

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意欲と継続の精神

講談社「本」3、4月号の池上彰「伝える仕事」(第12、13回)は、池上さんが独立し、フリーランスになっていく過程が書かれている。

池上さんは「こどもニュース」を担当するようになってから本の執筆依頼を受けるようになり、仕事の幅が広がった。ここからNHK退社後も携わる仕事につながっていくのだが、池上さん本人は元々NHKに残って解説委員になるコースを頭に描いていたという。NHK内でのその他の出世コースもあったが、「一(いち)ジャーナリストの立場を貫けるのは解説委員しかないと思ってい」たようだ。管理職にならず、あくまで現場で動くことを目指していたのだ。

しかし解説委員長には、君は解説委員にはなれないぞ、と言われた。理由は、専門性がないから、とのことだった。

生意気ながら、このエピソードに対し、ライターの道も同じようなものだろうか、と私は思った。どんな仕事も引き受けて書くマルチライターは、若い頃は安くたくさん動けるので重宝されるが、専門性を持ち、それを磨いていかないと単価を上げていくことは難しいと思う。専門ライターの道は、署名原稿を書くことや、ひいてはある種の作家になっていく道にもつながっていくと思うが、そうでない道を行くなら、編集者やプロダクション経営など、つまりライターの仕事を管理する道に行くことになるのが多いと思う。池上さんも、ある意味でそういう岐路に立ったのではないか。

池上さんは、ある分野に詳しくなる専門性より、「ものごとをわかりやすく説明すること」に自分の専門性を見出し、その道でやっていこうと考え、NHKを退職する方へ進んでいく。しかし、出版社の編集者にはNHKの看板を背負っていく方が良い、フリーで食っていくのは難しいと言われる。池上さん自身、これをもっともなアドバイスと捉えているが、それはそうだろうと私も思う。

しかし池上さんの意志は固く、NHKの記者からノンフィクション作家になっていった柳田邦男の背を追うように、フリーの道を選ぶ。

その後、池上さんは「NHKの」という肩書が通用しない中で仕事をするようになり、一方ではNHKでの経験が糧となって仕事が入ってくるようになる。

池上さんがNHKを辞めたのは五十四歳の時だが、池上さんほどの人でも、組織の中で出世していくか、専門性を伸ばしてフリーになるかでけっこう考えたのだ。どちらの道もあったのだろうが、やはり自分が好きなこと、それを続けていきたいという意欲と継続の精神があったことが決め手になり、道を開く力にもなったのだと思う。