杉本純のブログ

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グリーンピース方式

子供にグリーンピースを食べなさいと言っても子供は食べない。だから賢い母親は、ハンバーグの中にグリーンピースをつぶして練り込む。

以前、ある会社の企画会議に参加した時、プランニングを担当するクリエイティブ・ディレクターの人がそんなことを言っていた。

どういうことかというと、会社が社員に何かメッセージを伝えたい時、それがどれだけ正しいことでも直接伝えてしまっては社員はそれを煙たがる、そうではなく、社員が興味を持つ面白い話題や事柄を伝え、その中にそっとメッセージを溶け込ませるのが良い、といった意味である。

それを聞いて、私は内心で膝を打って同意した。そしてそれは、作品を書く際の主題の扱い方に関する示唆になるとも思った。

小説や映画では往々にして、作者が伝えたいことがあまりに直接的に述べられていると思われる箇所に遭遇し、違和感を覚えることがある。地の文や台詞がやたら説教臭く、何だか作者の思想を押し付けられているように思える場面である。

それをやってはいけないというルールはないが、登場人物の行為やストーリーの流れの中にそういう思想が織り込まれているのが巧いやり方だと思う。

例えば宮崎駿の映画を観ると、そういう塩梅がとても巧いなと思う。『風の谷のナウシカ』には、核の問題や、そもそもどうして人は憎しみ合い殺し合うのか、といった宮崎監督自身の問題意識が反映されていると思うが、それを物語の中に巧く溶け込ませていると感じる。「多すぎる火は何も生みやせん」といった台詞は思想を直接述べていると言えなくもないが、人物のキャラや言い方も考慮されていて説教臭さを感じさせない。『ナウシカ』と近い主題の『天空の城ラピュタ』の「土から離れては生きられないのよ」も巧みだと思った。つまり、自然なのだ。無理がないのだ。しかしそれをキャラクターに無理やり言わせようとすると、観ている側は違和感を覚えるのである。

自分の小説やシナリオがどうも説教臭い、と感じたらグリーンピース方式を思い出したい。