杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

ライター雑感

私の知っているあるライターが、インタビュイー(かなりの有名人)に関することをろくに調べもせずにインタビューしに行ってしまったらしい。

そのインタビュイーは出版界の人だったこともあり、ライターの準備不足をすぐに察知して、お前は俺のことをぜんぜん調べもせずに来やがったな! と怒鳴ったのだそうだ。私は、そのライターに非がなかったとは口が裂けても言えないが、一方で、可哀想だよ、とも思ったのだ。

取材の事前準備はきちんとしておくに越したことはない。私は以前、ある不動産開発プロジェクトの取材をした際、プロジェクトの関連資料を集めまくってその長大な歩みを年表にし、取材で聞くポイントを絞っておいた。お陰でけっこうきちんと話を聞けたと思っている。

しかし、いつも十全に準備できるわけではない。ましてそのライターは取材・執筆以外にもおびただしい量の社内業務を抱えており、著書が多くあるインタビュイーの場合でも一冊か二冊読めればマシというくらい、準備に使う時間が限られているのだ。そのインタビュイーも、年配の方ながらライターのそういう事情をも察してくれたのか、やがて怒りを鎮め、すでに別のところでも話していることを繰り返して話してくれたのだそうだ。

実際、多くの著書がある人に取材する場合に全著作を読むのはきわめて困難である。私もいくたりか物書きにインタビューをしたことがあるが、前もって全著作を読めたことは一度もない。ベテランの方ならなおさらのこと、著作量が膨大だし、絶版になっている本の場合は入手することすら困難になる。

世の中では腕のいいライターが減っていると聞くし、ギャラが低下し続けて品質まで落ちているという話も聞く。そこには、一つの取材に対しきちんと準備できる、時間的な余裕も経済的な余裕もなくなっていることが、背景としてあるのではないか。取材・執筆以外にも多くの業務を抱えざるを得ない状況になっており、そのことが余計に取材・執筆の仕事を奪っている。そういう悪循環になっているような気がしてならない。もちろん、ライターは限りある時間で最大限に努力して最良の取材をするべきではあるが。