杉本純のブログ

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悩ましい漫画

世の中にはこういう人もいる

みか、わかぴょん原作、ハラユキ漫画『夫公認彼氏ができました セックスレスにとことん向き合った夫婦の13年レポ』(KADOKAWA、2022年)を読みました。

本作の内容は、タイトルの通り、レックスレスになった夫婦がその問題にとことん向き合い、最終的には、妻のほうに夫公認の彼氏ができる、というものです。

広義のコミックエッセイに属するのでしょうが、4コママンガが連続する形になっていて、コマ割りなどの演出はありません。また、ハラユキ先生の漫画のタッチが優しく、読みやすいといえば読みやすいのですが、事実がベースになっているためか、内容には不思議な重みがあります。

本書を読んで、かなり、考えさせられました。この夫婦のとった行動は、犯罪ではないものの、子供など周囲への影響を思うと、いかがなものなのかと…。いや、私のこの迷いは、私自身がこの夫婦(特に妻)の価値観と行動を受容できるかどうか、受容するとしたらどう受容すればいいのか、というもので、世の中にこういう人がいるということは、事実としてひとまず受け入れるべきなのでしょう。

悩み抜いた末の苦渋の決断

話の詳しい経緯は端折りますが、セックスレスの原因は、どうやら夫のセックスへの関心と意欲の低さにあったようです。妻は、自分の思いを伝えてセックスを求め、夫は妻の思いに応えるべく、自分の性欲を高めるようさまざまな行動をとります。しかし、手を尽くしても、妻を抱く意欲は湧いてきません。

夫婦には子供が二人いるものの、夫は営業の仕事をしていて残業も多く、そういう気持ちにならないのです。とはいえ、どうやら夫は、そういう事情があろうとなかろうと、セックスへの関心が元々かなり薄い男のようです。

夫婦は、あくまで話し合いによって限界まで思いをぶつけ合い、そしてとうとう、妻が夫とは別に彼氏を持ち、セックスもする、という合意をするのです。

この辺りの描写は、かなり重たいものがあります。この合意は、夫婦が長い時間をかけ、悩み抜いた末の苦渋の決断でした。妻は、あくまで夫と性生活を送りたいと思っていましたが、どれだけ頑張っても、夫のほうが無理なのです。

けっきょく離婚

そして、夫婦と彼氏の三者面談が行われ、三者で正式に合意した後、妻は彼氏とデートに出掛けて、翌朝帰宅。その時の妻は、久しぶりに性欲を解放できた(らしい)喜びに顔を輝かせ、夫に感謝の言葉すら述べます。

私は、この箇所を読んで、何ともいえない気持ちになりました。これが、この夫婦の最適解だったのかどうか…。個人的な結論を先に述べると、私は、こうなる前に離婚するのがベストだったように思います。実際、夫婦は話し合いの過程で離婚することも選択肢に挙げていたのですが、子供はどうするのか、といった問題から離婚は選びませんでした。

本作のいわゆる「本編」はここで終わり、その後にエピローグのような後日談が掲載されています。結局、この夫婦は離婚しました。妻は最初の彼氏と別れ、その後二人の男と関係を持ちます(この過程の妻の振る舞いは、私には身勝手なものにしか見えませんでした)。さらに、夫が仲良くなった女性の一家と同居をするなど、一時期は家族と他人の境界線が崩壊してしまったかのように、めちゃくちゃになります。そして、三人目の彼氏ができた辺りで、妻のほうから離婚を切り出したのです。

一体なんのための夫公認彼氏だったのか、あの話し合いは何だったのか、とすら思える展開ですが、どうやら妻のほうは、この時期にはだいぶ性について達観していて、結婚などという制度からは卒業する、といった感じで、あっさりと離婚してしまったのです。

理解するのは困難

妻が性に達観したのは、やはり夫との関係に限界まで苦しんだからでしょう。セックスについて話し合う過程で、自分に向き合い、夫に向き合い、悩み苦しむ中で、結婚や性に対する自分の考えを洗練させていったのではないかと思います。

妻は自分を常識はずれな人間と認識していて、ずっと自分は社会の外にいると思っていたようです。しかし妻は中学三年の頃からずっと彼氏がいたというし、夫公認彼氏もそれほど苦もなくゲットできた感じなので、私には恋愛強者のように見えてしまいました。

一方の夫は、私には「確固たる考えが無い人」に見えました。社会に出た当初は国家公務員でしたが、辞めてサラリーマンになり、営業職としてノルマに追われ、妻とは離婚に踏み切れず、かといってセックスの問題からは常に逃げ回り、前述のように一時期は家庭がぐちゃぐちゃになるなど、この夫は一体何をしたいんだろう、と思う箇所がいくつもありました。夫にもうちょっと確固たる意志があれば、問題はこうも複雑化しなかっただろう、とも思いました。

とまれ、冒頭に書いたように、本作は非常に悩ましい漫画です。私はこの夫婦の決断と行動をどう受け止めればいいか、未だにわかりません。この夫婦はそれぞれ身勝手にも見えますが、互いに深く悩み、苦しんだ結果このような決断に至ったわけです。私はこのような体験をしたことがないので、この夫婦の苦しみを理解するのは困難でしょう。とはいえ、夫公認彼氏を持つなどというややこしいことをするよりも、一思いに離婚したほうがはるかに早く、確実に問題解決できただろうとも思います。

この夫婦の選択の是非は、二人の子供にどのような影響を与えたか、といったことから考えるしかなさそうな気がしますが、子供にどう影響したかによって親の行動の是非を考えるのはナンセンスである気もします。悩ましいですね。この(元)夫婦はYouTubeでも自分たちのことを語っているようなので、見てみようと思います。