杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

山脇百合子と『ねずみのおいしゃさま』

意外なストーリー展開

山脇百合子が亡くなりました。80歳。

ぐりとぐら」シリーズは恐らく全て読みましたし、『そらいろのたね』や『いやいやえん』もたしか読みました。それくらいでは山脇の仕事の一部しか知らないことになりますが、育児の過程でお世話になった感覚はけっこう強いです。

ぐりとぐら」はもちろんすばらしいですけれど、私が個人的に最もすごいと思うのは、なかがわまさふみ作の『ねずみのおいしゃさま』です。

ストーリーは、医者であるねずみの家に夜電話がかかってきて、熱を出したリスのために大雪の中を往診しに出掛けて行く。ところが雪にやられてしまい、その夜は患者であるリスの家にはたどり着けず、カエルの家族がいる家に入って一晩眠る。翌日、リスの家に着いたもののすでに元気になっていて家に帰る。するとこんどは自分が熱が出てしまう、という話。

想定外の困難に阻まれて目的を果たせず、あまつさえ自分が熱を出してしまう。医者がその夜にリスの家に行けなかったのは医者本人のせいではなく、精一杯頑張ったのに、待っていたのは往診の空振りと発熱。絵本にするのはどうかと思わせる理不尽なストーリーですが、山脇の優しく可愛い絵の効果のためか、あまり後味が悪い感じはしません。ある意味ではかなり不思議な絵本です。