杉本純のブログ

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日本語の誤用トップ5

ライターをやっているためか、日本語の誤用にはけっこう敏感なつもりだ。インタビュイーが意味を間違えて発言しただけなら、原稿の方で正確に書けば問題ない。ライターの原稿への赤字修正、ないしは差し替え原稿で誤用がある場合もあるが、そういう時でも、なるべく丁寧に説明して理解してもらい、正しい日本語にすれば大丈夫だ。

問題はライター本人が間違えてしまった場合である。ライターは、それを恥とするべきである。私はNHKの番組で「雨模様」が誤用されているのを見たし、「一貫性を貫く」という重言が用いられていたのも見た。へぇ、NHKのナレーション原稿のライターや司会者でも誤用するんだなと思ったものだ。いちいち覚えていないが、民放の番組を見ていると誤用がどんどん見つかる印象がある。

ここでは、私の周囲に見られる、ライターによる誤用の多い言葉のトップ5を紹介する。あくまで私が認知している限りのものなので信頼できる順位とは言えないが、何かの参考になればと思い、提示する。

5位 命題(至上命題)
「命令」+「課題」の省略形のように使っている人がけっこういる。どちらかというと、インタビュイーがそう発言して、正さずに使ってしまっているケースが多いようだ。「命題」は論理学の用語で、真偽を問う対象の文のことである。他には題名をつける意味での「命題」もある。

4位 難易度が高い
「難しい」ということを言いたいのに「難易度が高い」と書く人が多い。これもどちらかというとインタビュイーの誤用をスルーしている例が多いように思う。「難易度」は難易の度合いのことだ。すでに巷では「難易度が高い」=「難しい」と受け取るのが常識と化しつつあるようなので、私も容認する方が良いかなぁと思っているところだが、「難しい」と言いたいなら「難度が高い」と書くのが最も良いだろう。

3位 煮詰まる
「行き詰まる」の意味で使っている人が多い。これは原稿よりも発言において誤用している例の方が多い印象だ。会議などの場で「もうこれ以上話しても答えは出ないな。煮詰まっちゃった…」などである。本来の意味は逆で、会議や相談などでだいたい意見が出尽くして、結論が出る状態になることだ。

2位 〜ありき
「〜を前提とする」と言いたいのだろう。ライターに限らず実に多くの人が誤用しており、「煮詰まる」と同様、発言において間違って使っている例が多い。本来は「〜があった・ありました」という意味である。聖書の「始めに言葉ありき」が最も有名だが、『美女ありき』『父ありき』という映画もある。

1位 敷居が高い
これはもう身の回りで誤用だらけの様相を呈している言葉である。これを正しく使っているライターを私は見たことがない。高級そうで手が出せない、レベルが高いなど、つまり「ハードルが高い」の意味で使っている人がたくさんいる。正しくは、不義理・不面目なことがあってその人の家を訪ねづらい、という意味である。

他に、「世間ずれ」を「一般的な感覚からズレている」といった意味で使っている人や、「にやける」を「ニヤニヤしている」という意味で使っている人、「年季がはいっている」を「(道具などが)使い込まれていい味が出ている」という意味で使っている人なども少なくない。いずれも間違いである。

また、これはライターではない人だが、「すべからく」を誤用している人がけっこういる。「すべて」の高級表現のように思っているようだが、違う。

人間である以上、間違ってしまうものであり、私自身も誤用をすることはある。大切なのは、誤用に気づいたらそれを正すことであり、以降、同じ誤用をしないことだ。しかしライターの中には誤用しっぱなしで間違ったことに気づいてすらおらず、何度も同じ誤用をする人が少なくない気がする。読み返してみて不安を感じる熟語や成句があったら一つずつ辞書を引き、正しいかどうかを点検する習慣を身につけることが重要だと思う。

文化庁国語に関する世論調査」にはいつも誤用に関する調査結果が発表されており、面白くてためになる。