杉本純のブログ

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BBC版「レ・ミゼラブル」とワーテルローの挿話

レ・ミゼラブル」が3月15日から5月3日までNHKで放送された。この作品は、元は英BBCで2018年に制作されたもの。主演はドミニク・ウェストで、ジャヴェールをデヴィッド・オイェロウォが演じている。

私は「レ・ミゼラブル」をすばらしい小説だと思っているが、映像化作品を観たのは初めて。たびたび映画化されているのも知っているが、観てはいなかった。

レ・ミゼラブル」は、すばらしい小説なのだがとにかく長く、また「哲学的部分」が分厚いので、どう圧縮して映像化すればいいかは、けっこう難しいと思っていた。今回観たのは1回が50分ほどで全8回の連続ドラマだから6時間40分ほどにしたわけだ。これならば2時間ものの映画などよりまとめすいかも知れない。

ドラマはおおむね原作に忠実だが、冒頭がワーテルローの戦いの直後、テナルディエがポンメルシーを助けるところになっていて、これが原作と大きく違っている。原作はミリエル司教の来歴から始まるので、ああ、だいぶ端折ったんだなと私は思った。

この始まり方について、フランス文学者の鹿島茂は「BBC版が勝手にストーリーの順番を変えているわけではありません。むしろ、BBC版は『レ・ミゼラブル』を深く読み込んでユゴーの本当の意図を正しく理解していると言ってもいいのです」と、NHKホームページの特設コンテンツ「~今こそ、ドラマ『レ・ミゼラブル』~」で述べている。ワーテルローの挿話は、『レ・ミゼラブル』の原案である『レ・ミゼール』が『レ・ミゼラブル』へと転換する大きな役割を果たしたわけだが、これをドラマの冒頭に配置したことは、小説の構成的な意図を見抜いていたからだと。

私は鹿島先生のようにこの作品の背景を知らないが、何となくではあるものの、ワーテルローの挿話が冒頭に置かれたことで観る側は『レ・ミゼラブル』の世界をかなり手っ取り早く、効果的な形で理解することができたのではないかと感じた。

ドラマはやはり感動的で、創作意欲を刺激された。