杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と無花果

佐伯一麦は2018年の秋に渡英した。フェルト作家であるリズという友人と、佐伯の妻との「二人展」がイギリスのウェルズという場所で行われ、佐伯夫妻はリズとその夫の家に滞在したのである。

そのことは、佐伯自身が朝日新聞の土曜版「be」の「作家の口福」に、「無花果ふたたび」(11月24日)という題で記している。「作家の口福」は色んな作家が持ち回りで4回(一か月)連載する食のコラムで、佐伯は11月3日の初回に「無花果の甘露煮」について書き、4回目の11月23日にも、佐伯の妻がリズ夫妻に土産として無花果の甘露煮を渡したエピソードを書いたので、「無花果ふたたび」というわけである。

さて、ところが、それからさほど月日の経たぬ12月7日に出た「新潮」2019年1月号で、佐伯は「大聖堂のある街での再会」という特別原稿を寄せているのだが、これがウェルズにリズ夫妻を訪ねた話である。土産である無花果の甘露煮もしっかり出てくる。

これぞ一石二鳥、と私は苦笑しつつ思った。一つの出来事から二つの記事を書く、というやり方で、私も仕事で出掛けた先では、いつも複数のネタを拾うよう心掛けている。まあ…「無花果ふたたび」は、ほぼ「大聖堂のある街での再会」の短縮版のように見えなくもない。「作家の口福」がグルメコラムなので、渡英の折の食のネタだけを抜き出して書いたかのようだ。

佐伯と無花果の関係は古く、佐伯の生家の汲み取り便所の裏に、無花果が生い茂っていたという。佐伯は草野球をして腹を空かせた後によく無花果を食べていたそうだが、小学校高学年の時に便所が水洗式に替わり、伐られてしまったのだという。「作家の口福」1回目の「無花果の甘露煮」に書いてある。