杉本純のブログ

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「かか」と「うーちゃん」

宇佐見りん『かか』(河出書房新社、2019年)は、「うーちゃん」という主人公であり語り手でもある女性が、母親である「かか」への複雑な愛情を吐露する一人称小説です。

父である「とと」が浮気し、発狂してしまった「かか」を「うーちゃん」は深く愛しており、自分が「かか」を妊娠したい、と思っています。小説はその思いを果たすための旅を描き、その過程で「かか」や家族との思い出が織り込まれています。

母親を妊娠したい、というのはおかしなことですが、読んでいて私は、どこか大江健三郎の小説のようだなぁ、と思いました。「かか」を妊娠したいと願う「うーちゃん」が、大江の『取り替え子』に出てくる、あなたが死んだらもう一度生んであげる、と子に生まれ変わりの話をする母親に似ている感じがしたのです。

「うーちゃん」という名前が『キルプの軍団』の「オーちゃん」を思わせるのも、大江作品を想起させる一因になった気がします。