杉本純のブログ

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坂口博信と植松伸夫

良い「体育会系」

自宅の所蔵品整理をしていて、かつて買った「FINAL FANTASY Ⅵ」のサウンドトラックを捨てました。これは3枚組のCDですが、すでにCDプレイヤーは我が家にありませんし、3枚のうちの1枚を紛失していたためもう売ることもできず、単に捨てることになりました。

このゲームには人生で最も熱中したといっていいくらい熱中しました。その思い出については連載中の「ゲーム遍歴」に別途書きますので、ここでは触れません。ただ、捨てようとして中身を出したら、収録曲の一覧が載っている小冊子に、作曲家の植松伸夫先生のメッセージと、プロデューサーである坂口博信と先生への「インタヴュー」が載っていたので、せっかくなのでさよならする前に一読しました。するとこれが、面白かった。

植松先生のメッセージもいいのですが、坂口博信と先生への「インタヴュー」はもっといい。テキストは松下謙介、写真は小野瀞也(しずや)です。

1994年4月に発売された「FF6」の制作が佳境に入った1月7日に実施されたインタビューです。全体に、ざっくばらんに、思ったことを話していて、二人の肩の力の抜けている感じがまずいいです。

話しているのは、FFシリーズの第一作を作った時のこと、プレイヤーがゲーム中の台詞に感動することについて思うこと、子供の教育について、今後の夢、です。

私が特に面白いと思ったのは、最初のFF第一作制作時のことです。当時、坂口博信も植松先生も、FF以前の作品が上手くいかなかったので、FFは開き直って制作に当たったそうです。それが成功して、今は人気のシリーズになっているけれども、新作の制作時には「売れてほしい」とは思うがやはり作品に悔いが残らないようにしている、とのこと。

坂口:実際、制作の詰めの段階に入って来ますと、これがあと1箇月で終わればその後なら交通事故にあってもいいやって(笑)。
植松:そうそう(笑)。僕もね、その時期になると、取り敢えずあと1箇月身体がもてば、入院してもいいやって思います。いやあ、実際キツいですからねえ。もうガタガタになりますから(笑)、終わりの頃は。
―そうさせるのは何なんですかね。
坂口:スタッフのノリが体育会系なんでしょうね、基本的に。皆で何かの大会の優勝を目指して、ちょうど勝ち抜きをやっている最中のような感覚で。サッカーのラモスっていますよね。あの人が「僕はワールドカップ出れたら足折れてもいいんだ。」って。実際折れたら嫌でしょうけど(笑)。で、そういう部分が結構全ての原動力のような気がするんですよ。

以前NHKのドキュメンタリーで漫画「北斗の拳」の誕生について関係者に取材した番組がありました。たしかそこで原哲夫先生が、上記引用に近いことを話していたような気がします。すなわち、ブラックな働き方が罰せられるなら俺たちの当時の状況は酷いことになるんじゃないか、などと話していたような。

それはそうと、私は体育会系というと、先輩が後輩をこき使う、といったイメージが強いですが、上記引用のような雰囲気はいいなぁと思います。ただ、私はそういう一種の集団フロー状態を味わった経験が少なく、その意味では一人で勝手に盛り上がって取り組む方が向いているのかも知れません。