杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

大河内昭爾のすれ違い

滋味あるエッセイ集『落葉の坂道』

一昨日、このブログで記事にした日本文藝家協会編『ベスト・エッセイ2002 落葉の坂道』(光村図書、2002年)。佐伯一麦の「川の土手の光景」は味わいがありましたが、他にも拾い読みをしてみるかと思い、三浦哲郎「落葉の坂道」、大河内昭爾「作家のうしろ姿」を読んでみたら、どちらも滋味があってよかったです。

「落葉の坂道」は、三浦が自分が選考委員を務める木山捷平文学賞の授賞式に出席するため岡山の笠岡市に行った時、木山の墓参のため、木山の生家の裏山の坂道を通って、湿った落葉のせいで転倒しそうになったエピソードが紹介され、木山との思い出についても触れています。三浦は木山と小沼丹の家で会ったことがあり、木山と小沼の将棋の様子を記しています。木山への敬慕の情が窺え、いいですね。なお木山文学賞に触れるくだりでは佐伯一麦の名前も出てきます。

大河内「作家のうしろ姿」もいい。同人雑誌評の先輩である浅見淵(ふかし)の告別式で一緒になった立原正秋との、帰り道でのすれ違いを描き、その際の微妙な残念な気持ちが吐露されています。立原とのエピソードはいわば導入で、本題は田宮虎彦との残念な別れを描いています。大河内は田宮とも立原の時と似たようなすれ違いを経験していて、つまり立原とのエピソードが後で生きてくる形になっています。こういう些細なすれ違いは誰もがしばしば経験するものですが、そこに後にも尾を引く残念な気持ちが生じるところには、強い共感を覚えます。