アントン・カラスの名曲
今回の蔵書始末記番外篇は、本ではありません。1949年の映画『第三の男』のサウンドトラック(1999年)です。
映画公開50周年の記念盤のようで、パッケージに函がついています。このサントラを買ったのは恐らく学生時代。もう二十年以上持ち続けているCDで、今回処分しようと思ったものの、すでに我が家にはCDプレイヤーが無いにも関わらず捨てられませんでした。
映画『第三の男』は世界映画の名作に数えられる作品です。私も好きはありますが、シナリオだけならもっといい作品はたくさんある、とも思っています。本作はオーソン・ウェルズやアリダ・ヴァリなど俳優がとてもいい味を出しており、また撮影がいい。それに、ウィーンの情緒ある街の景色がいいです(本作のウィーンの描かれ方は地元から不評だったとのこと)。そして何より、アントン・カラスによる、全篇にわたって流れるチターの音楽がいいですね。
本作のハリー・ライムのテーマがヱビスビールのCM曲に使われていますが、それを知っている日本人は多くはないでしょう。私はそれを、小説「名前のない手記」に小咄として入れています。
アントン・カラスはチター奏者として居酒屋で演奏しており、そこで本作の監督キャロル・リードに見出されたといいます。カラスは数奇な運命を辿った人であるらしく、伝記『滅びのチター師』(文藝春秋、1982年)を私は持っていました。
また私はカラスへの興味からチターにも興味を持ち、習ってみようかなと思ったこともありました。しかし、それは今に至るも実現していません。
本作の音楽は、何といってもラストシーンがいい。ジョゼフ・コットンが待っている傍らを、ヴァリが無視してまっすぐ歩き去っていく。落ち葉がぱらぱら降り注ぐ並木道が美しく、音楽が哀愁があっていいですね。
そんな次第で、このCDは思い出深い一枚です。今回の番外篇は本ではありませんが、捨てようと思ったけれど捨てられなかった一枚として書きました。