杉本純のブログ

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蔵書始末記6 『全集黒澤明』

映画に血道を上げた青春の記憶

昨年末から続けている蔵書整理。その際にお別れすることにした本の思い出を記す不定期連載「蔵書始末記」、今回は岩波書店の『全集黒澤明』です。

本書はタイトルの通り、映画監督・黒澤明の脚本全集です。監督デビュー作である『姿三四郎』から遺作『まあだだよ』までの脚本の他、監督していない脚本作品も収録されています。全六巻ですが、後年刊行された「最終巻」を含めると全七冊あります。

これはたしか映画学校に入学する頃、今は無い神保町の「岩波ブックセンター」で買いました。当時は「最終巻」が出ておらず、黒い函に入った全六冊が赤いケースに収められていました。本は赤い布張りの上製本で、黒函と赤ケースに収まった全六冊はなんとも高級かつ重厚な感じがして、愚かな学生だった私はまずこれを所有できたことに大きな喜びを感じていたことを覚えています。

全作品に対し佐藤忠男先生による「解題」が付けられ、作品ごとの黒澤のメモなども掲載された、かなり凝った編集を施した全集だったのは間違いありません。私は特に初期作の『酔いどれ天使』や『野良犬』などを読み込み、構造を読み解いたメモを書き込んでいました。そのせいで本書の古書としての価値は下がりましたが、映画に熱中していた私はそんなことはお構いなしで書きまくっていたものです。

映画学校の友人は黒澤明が好きで、特に『七人の侍』などが好きということだったので、第三巻と四巻を贈りました。お陰で私は端本を所持している状態となり、そのまま長い年月が過ぎました。今は脚本を書く気はなく、端本たちは書架にあるままページを開かれることもない状態だったため、今回手放すことにした次第です。

『全集黒澤明』は私にとって、映画に血道を上げた青春の記憶を留める本です。別れるのは名残惜しいですが、私は前進したいのです。