杉本純のブログ

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歴史はジグソーパズル

ナチスユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」に関する定説の正当性をめぐる、イギリス人作家デイヴィッド・アーヴィングとアメリカ人歴史学者デボラ・E・リップシュタットの法廷闘争に関するテレビ番組を見ました。

私は、専門性などは少しも持ち合わせていませんが、歴史を学ぶのは好きなので、その番組はとても興味深かったです。

一般に広く浸透している歴史の定説は、実は間違っているかもしれない。例えばそんな風に、100%確かな証明ができていない定説に疑義を呈し、悪人と伝えられている人物は実は悪人ではない、という言説を繰り出す。それを広めることで、悪人ではないことが定説になっていく…。

すごいことですが、アーヴィングという作家はそれをやろうとしたとのこと。それを歴史学者として見過ごすことができなかったリップシュタットが、言論をもって敢然と立ち向かい、果ては裁判にまで発展したのです。すごい。

ジョセフィン・テイの『時の娘』(ハヤカワ文庫、1977年)は、悪王として有名なリチャード三世は本当に悪かったのか? といった疑問を巡る歴史ミステリです。アーヴィングとリップシュタットの闘争と争点が似ている気がします。

番組に解説者として出演していた日本の歴史学者が、歴史を書くのはジグソーパズルをつくるのに似ている、と話していたのが印象的です。史実を一つずつ収集し、パズルのピースを組み合わせるように記述するのが歴史家の仕事だが、ピースが全て揃うことはない。欠けている部分は、周辺のピースのつながりから推論するしかなく、新たな史料が見つかるごとに、一歩ずつ理解が更新していく。その膨大な集積が歴史なのであり、アーヴィングは、パズルの全体を見ることなく部分的な欠陥だけを指摘し、全体を覆そうとしたのだ、と話していました。なるほど。