いずれは破局するかも
野原広子の漫画『離婚してもいいですか?』(KADOKAWA、2014年)を読みました。
私は過去に同じ作者による『消えたママ友』(KADOKAWA、2020年)と『ママ友がこわい』(KADOKAWA、2015年)、そして『妻が口をきいてくれません』(集英社、2020年)を読みました。感想はそれぞれこのブログに書きましたが、ママ友をテーマとした前者二作は共感できず、それらに比べると夫婦をテーマとした後者は良かったと思いました。
さて本作。三作中で比較的良いと思った『妻が口をきいてくれません』と同じく、夫婦をテーマとしたものです。
主人公である妻は夫との間に二人の子をもうけ、パートをして働いているが、家庭内では冷淡で怒ると物に当たり、物語の後半ではついにDVまでする夫と離婚したいと思っているものの、二人の子が別れないでくれと泣くので、別れるのをやめ、いつか離婚するぞという思いを抱いて一緒に暮らし続けることにする、という内容です。
リストラや実家への引っ越し、など夫側に起因する懸案事項や、子供の友達の両親の離婚、またパート先の人たちとの夫婦観についての会話なども描かれていますが、主人公は別れない選択をし、表向きは平和な家庭を続けます。ただし上記のように、主人公はいつか離婚しようと考えていて、夫への愛情はとっく冷めているので、この漫画に続きがあれば、夫婦は破局するのかもしれません。
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実はズルい主人公
『妻が口をきいてくれません』はストーリーテリングに巧みさを感じましたし、共感するポイントもあったにはあったのですが、本作はそれがなく、ストーリーとしてもぜんぜん楽しめませんでした。
しかし実際、世の中にはこの漫画に描かれたような夫婦が多いのでしょう。その意味ではリアリティがあると言えますが、本作の主人公はこの作者の別の作品の主人公たちと同じように行動力がなく、つまらなくて苦しい現実にひれ伏し、妥協して生きる道を選ぶので、漫画としてストーリーに力があるとは言えないと私は思います。
もちろん、ストーリーの中には「現実に打ち負かされる」という悲劇的なタイプはありますが、主人公はそもそも現実に懸命に向き合ったとは言えません。パートで数万円を稼いでいる程度で、国家資格や就職にチャレンジしているわけではありません。
本作、いやもっと言うとこの作者の作品全般にどうも共感できないのは、主人公たちのそうした甘い、さらに言えば実は卑怯な態度ゆえではないかと、私は感じています。
夫とは別れたいと思っている。でも別れないでくれと子供に頼まれたから別れない。それは見方を変えれば、子供を言い訳にして現実に妥協しているだけで、実は子供を甘やかし、かつ子供に甘えているわけです。
心から別れたいと思っているのなら、子供がどれだけ泣こうが喚こうが家を出るべきでしょう。なぜかというと、それが自分の本当の幸福につながり、子に本当の愛情を注ぐことにもつながっていくと思うからです。それを、子供が別れないでと言ったから、という理由で離婚を諦めるのは、つまり自分の本心から逃げているのであり、現実に妥協する原因を子供に求めているのです。
つまり、この主人公は被害者のように見えるのですが、お金を稼ぐ能力がなく、それを磨く努力もしない自分の弱さは隠したままにし、夫の経済力にぶら下がりたいという欲求をちゃっかり実現させている、実はとてもズルい人なのだと思います。