杉本純のブログ

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ポオ「モルグ街の殺人」

世界初の推理小説

エドガー・アラン・ポオの「モルグ街の殺人」(『ポオ小説全集3』(創元推理文庫、1974年)所収、丸谷才一訳)を読みました。ちなみに私が持っている文庫は2001年の第38版です。重版の多い本は他にもたくさんあるでしょうけれど、27年で38版ということは年1回以上重版していることになり、本書が多くの読者に支持されている証左といえるでしょう。恐らく私は本作を過去に数度、読んだと思いますが、内容はほとんど忘れていました。

世界で最初の推理小説といわれる本作。文庫本で50ページ足らずの短篇ですが、ポオらしく優れた描写力が発揮されているもののストーリーテリングに余計なところがないので、結果として短くなっている印象です。

新ジャンル創設は意図していなかった?

ポオはきっと、本作を「推理小説を作ろう」と思って書いたのではないでしょう。ジュリアン・シモンズによるポオ伝『告げ口心臓』(東京創元社、1981年)には、「新しい文学のジャンルをつくることはポオの意図にはなく、…」とあります。

また同書には「『モルグ街の殺人』は世界最初の密室犯罪ものだが、同時にこれは恐怖小説でもある」とあり、ポオは怪奇や恐怖を読者に提供しようとしてサスペンス的要素で引っ張っていくお話を作った結果、こういう小説ができあがったのじゃないかな、と思いました。

とまれ、デュパンの人物造形といい、複数の証言などを素材として推理していく過程は面白かったです。

「デュブール」という女

『告げ口心臓』には、「(ポオが)最初に通った学校の女経営者のデュブールという名は『モルグ街の殺人』に出てくる」とあります。

確かめてみると、モルグ街の殺人事件の詳細を伝える新聞記事に、事件に関する証言が列挙される箇所があり、その最初に「洗濯女、ポーリーヌ・デュブール」とあります。これですね。