杉本純のブログ

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「ライター」と「書けるライター」

ライターは資格ではない

佐藤友美『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス、2021年)は、ライターとして生計を立て、かつ活躍し続けていくためのマインドとスキルを伝える本です。とはいえ、文章術の類いはなく、スキルというのはどちらかというと処世術の趣があります。

私自身が、いちおうはライターという肩書を背負って生きている人間ということもあり、気になったので手に取りました。

印象的だったのは、「CHAPTER 1 書く仕事を知りたい」の「Think 3 ライターへの道は狭き門か?」の冒頭、編集者はいつもライターを探しているが、当のライターは探されている気がしておらず、また、食べていけるライターはほんの一握りだと言われていて、どっちが本当なのか、というところです。そこから、新刊書籍の数と書籍ライター業界の人数の計算が行われ、次のように書かれています。

 ここからわかることは、少なくとも、ライターとして仕事を獲得することは、漫画や小説の新人賞に応募して1等をとらないとデビューできないみたいな、超・狭き門ではない、ということです。

ライターは資格ではないため、なろうと思えば誰でも今日から名乗ることができます。多少の文章の心得があれば、実際のライター仕事もすぐにできるようになってしまうかもしれません。その意味で、デビューなどという大それたものではそもそもないんじゃないかな、と私は思います。

「あんたは奴隷」

佐藤はその後、編集者が探しているのは「ライター」でなく「書けるライター」だと言います。「書けるライター」とは、文章が間違っておらず、わかりやすく、面白い人を指すようです。

まったくその通りだと思います。世にライターを名乗る人は多いですが、この三つの条件を満たすライターは多くないかもしれません。

正しく、分かりやすい文章が書けるライターは、取り敢えず一応の信頼を獲得できますが、面白い、というのは正しさや分かりやすさより測りにくく、読み手の主観に委ねられる部分が大きい。読み手の気持ちに近づいて、それに沿った文章を書けると、それは面白い文章になりやすいと思いますが、相性やコンディションなど不安定な要素が複雑に絡まり合い、またライター自身の書く分野に対する得手不得手の問題もあるので、簡単ではありません。

ところで、佐藤は元ADだったらしく、その時代のエピソードも印象に残りました。ADはアシスタントディレクターの略ですが、ある先輩から「あんたは奴隷」の略だと教えられた、とのこと。テレビ制作会社は軍隊で、ADは兵隊だとも言われたそうです。奴隷と兵隊ではぜんぜん違うように思いますが…まぁとにかくひどい環境だったんだと思いましたね。

書く仕事がしたい

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