杉本純のブログ

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佐伯一麦とアイスランドサガ

翻訳家yook

yook(ユック)という翻訳業をしている人による、QXエディタのユーザーである佐伯への、QXエディタに関するインタビューです。このページは2000年3月15日にアップされたようですが、恥ずかしながら存在を知りませんでした。

二瓶浩明による佐伯年譜の2000年3月には「活字文化の復権のためにインターネットというデジタル空間を利用する実験として鐸木能光、森下一仁と「文藝ネット」を立ち上げる。」とあり、これと関係がある記事かと思いました。この「文藝ネット」は今も閲覧でき、佐伯の文章を読むこともできます。

QXエディタを開発したarakenという人のホームページに「文藝ネット」のリンクがあり、またyookのホームページへのリンクも貼られています。また鐸木能光は作家で、2001年に『ワードを捨ててエディタを使おう』(SCC books)というエディタに関する本を出しています。さらに上記年譜の同年6月には「『麦笛』第三号に翻訳家輿幸信との対談『私の電脳文章作法』を発表。」とあります。この「輿幸信」という人がyookかな、と思ったりしましたが、詳細はわかりません。

アイスランドサガ

面白かったのは、1984年の佐伯のデビュー時のエピソードです。この時、佐伯とともに小林恭二が「電話男」でデビューしていますが、佐伯がワープロすら使わず手書き、しかも筆で書いたのに対し、小林はワープロで書いた原稿で応募していたという。その落差は、選考会で話題になったとのこと。

このエピソード、どこかで読んだことがあるような、ないような…。「海燕」に書いてあったような気もします。

どの作家が好きか、というyookの質問に対し、好きとは違って避けて通れないという意味で、しかも戦後に限定して、大岡昇平大江健三郎中上健次古井由吉と答えています。中上や古井はともかく、大岡や大江の名が出てきたのはある意味で意外でした。たしかにいずれも避けて通れない作家だと私も思いますが、谷崎は除外するとしても、川端や三島を出さずに大岡や大江を出すのはなぜだろうと思いました。佐伯の文章には、大岡や大江よりも川端や三島の方が多く出ているはずです。

また佐伯はここで、「アイスランドサガ」をずっと読み続けていると答えており、これは私は知らなかったので新しい発見でした。アイスランドサガは中世アイスランドで成立した散文作品群の総称で、約200点が現代に伝わっているらしいです。ノルウェーアイスランドで起きたできごとを題材にしているものが多いそうで、佐伯がこれを読み続けているのはノルウェーに関係があるからでしょう。