杉本純のブログ

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映画『激突!』を観た。

今でも十分観られる

スピルバーグ監督の『激突!』(1971年、アメリカ)を観ました。何年ぶりだろうか…実に久しぶりでしたが、面白かった。

追い越したタンクローリーのドライバーが腹いせに嫌がらせをしてきて、命懸けのカーチェイスにまで発展する異常な話です。

この映画自体は50年以上前の作品で、私が前に観た時点でさえ、すでに旧作だったわけです。しかし、再見した今回においても、さほど古さを感じませんでした。いや、古くなったといえば、例えば今ならドライブレコーダーとかGPS搭載のカーナビとかによって、ああいう犯罪行為をやろうとする人はいないんじゃないだろうか、といったことくらいで、逆にああいう執拗な嫌がらせは今も十分にあり得ると思える点で、すごくリアリティがありました。

一つのお手本

この映画を撮った時、スピルバーグは25歳でした。90分ほどの本作で才能を発揮したことになりますが、何がすごいのかというと、カメラワークです。寄りと引きの使い分けで情景と心理を巧みに描き出しています。タンクローリーの運転手は顔を映さず、それがかえって不気味さを際立たせている。いや、顔ばかりか、この作品は余計なものをほぼすべて削ぎ落としています。主人公の状況は、妻との関係なども描いていて一見すると余計なようですが、普通の人が悪人に遭遇する恐怖を表現するのに効果を出しているとも言える。

ちょっと褒めすぎですが、無駄を徹底的に削ぎ落とすことによって描きたいものを浮き彫りにする手法の、いいお手本の一つと思います。