杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

お金のはなし11 貧乏時代

青木祐子の二十代

日本銀行のPR誌「にちぎん」2021年冬号(日本銀行情報サービス局)を手に取り、開くと、最初のページに「エッセイ “おかね”を語る」というコーナーがあり、小説家の青木祐子が寄稿していました。

「未来へつなぐもの」というタイトルで、青木が地方で会社員をしていた二十代の頃のエピソードが載っています。

「薄給だったのでお金を使うことが怖かった。一方で、予算の中で振り絞って好きなものを買うことが好きだった」とのことで、百貨店で好きスカートを買ったことなどが書かれています。しかし青木は、そういうお金の使い方を間違っていたと思っているらしい。

青木は小説家になった後、ツモリチサトのスカートを買ったそうで、それはずっと欲しかったがお金がなくて買えなかったものの一つだったらしいです。そして「あの頃のわたしに仕送りをしたいと思った。今でも思っている」と書き、一方で「(それをしたら)彼女は喜ぶだろうか」と、自問してもいます。

昔になんて戻りたくない

 今、わたしは地味な女性会社員の生活の小説を書き、節約をテーマにした話を書いている。書くたびにあの頃のことを思い出す。わたしは間違っていたと。しかし同時に、そういう生活をしていたからこの小説は生まれたのだと気づく。

とあります。

かつての自分は愚かだったと思いつつ、そんな風に愚かで苦しんことにも今につながる一定の意味がある、ということかと思います。思えば私自身、自分というものがなく、承認欲求めいたものに翻弄され、他人にいいように利用されて傷ついたかつての自分自身を愚かだと思いますが、過去は消せないし、そういう過去があったからこそ今の自分があるのは間違いないわけです。

ただ、売れているお笑い芸人などがよく、かつての貧乏時代はあれはあれで楽しかった、みたいに言うことがありますが、私は昔が楽しかったと言えないことはないものの、あの頃に戻りたいかというと、戻りたくありません。

青木祐子といえば『これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~』で、ドラマ化作品は面白かったです。今書いているという、節約をテーマにした地味な女性会社員の生活の小説とは『派遣社員あすみの家計簿』のことかと思います。