杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

ポオの筆力

ポオ唯一の長篇「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」(大西尹明訳『ポオ小説全集2』(創元推理文庫、1974年)所収)は、平たく言えばピムの船旅の話なのだが、ポオの異常なまでの筆力による分厚い描写がすさまじく、読んでいると自分もその船にいるかのような臨場感を味わわせてくれる。この船旅はちょっと…どころかかなり異常な旅なのだが、グロテスクだが目が離せない、気味が悪いがもっと見てみたいと思う、そんな誘惑に満ちた不思議な冒険である。

分厚い描写は読み応えたっぷりで、その上ほとんど改行せずページが文字でびっちり埋められているので、もうずいぶん長いこと読んでいる気がするもののまだまだ終わらない。

バルザックの長篇もそうなのだが、時にげんなりするほどの執拗な描写は、しかし読者を小説の世界にどっぷりと浸らせる効果があるように思う。現代の小説にも面白いものはもちろんあるが、バルザックほどその世界に浸らせてくれはしない気がする。

ポオの小説にもそういう、世界に浸らせてくれる描写がある。それはやはり筆力のなせる業ではないかと思う。