杉本純のブログ

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「人生の門出」

北村薫『六の宮の姫君』(創元推理文庫、1999年)を読んだ。

芥川龍之介の王朝物の短篇「六の宮の姫君」の成立事情を調査と推理で追究する内容で、いうなれば書物の世界の探検記である。面白かった。内容からして、文学の玄人向けの作品と言えるだろうが、女子大生の「私」を視点人物とした読みやすい文章になっている。

文学作品の成立事情の追究は面白い。それは私も実体験を通して知っているが、その文学研究の過程を、こういう風に書けば立派な一篇の長篇になるんだ、と本書を読んで感じた。佐藤夕子による解説には「学問というのは、もともとミステリ向きなのである」とあるが、たしかにそうじゃないか、と思った。

解説の最後には、創元推理文庫は国内作品にも横文字のタイトルが付いている、として、本書は、北村薫の希望でバルザック「人生の門出」の英訳し直した言葉(「A GATEWAY TO LIFE」)になっている、とある。私はバルザックの「人生の門出」は未読で、こんど読んでみたい。

「人生の門出」のあらすじをネットでざっと確認したところ、『六の宮の姫君』の主題とは関係なさそうな感じがした。だが、女子大生の「私」は大学の学問の集大成として卒論を書き、社会に出て行くことになる。それは言うなれば、「私」が「人生の門出」に差し掛かったのだと言える。また、本書に出てくる芥川や菊池寛などのエピソードを読むと、人生の分岐点のようなものを感じさせる。作者はそういった観念を想起させようとしたのかも知れないと思った。