杉本純のブログ

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佐伯一麦の小説と川

岡村直樹『百冊の時代小説で楽しむ 日本の川 読み歩き』(天夢人、2021年)という本を手に取った。著者は旅行作家だが、多摩川の近くで育って「川フリーク」となったとのことで、本書はタイトルの通り、時代小説を通して日本の川について考察するものである。

出てくる小説は主に時代小説なのだが、最後に「あとがき」として、現代小説には川がどう描かれているかということで、佐伯一麦の長篇『渡良瀬』と『山海記』に触れている。

この「あとがき」には佐伯も「川フリーク」であることが書かれているが、佐伯は実際、海の子、山の子といった言い方に倣って「川の子」と自認している。またその小説にも川が何度も登場するので、ある意味で、川を考察するにはうってつけの現代小説作家と言えるだろう。

『渡良瀬』を紹介しつつ渡良瀬川渡良瀬遊水地足尾銅山鉱毒事件などに言及し、『山海記』を通して阿武隈川をはじめとした各地の河川に言及している。川が登場する佐伯の小説はまだまだあるが、紙幅の都合で作品を絞ったのかもしれない。

本書のように「川」を切り口に小説を取り上げるのは面白い。佐伯の小説全体を川をキーワードに読んでみるのもいいかもしれない。