杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

狂乱の時代

石田衣良『波のうえの魔術師』(文春文庫、2003年)を読んでいる。

大学を出たばかりの若い男が謎の老人に雇われ株式市場で取引を始める話だが、読んでいると、ここで描かれている投資の世界は、生き馬の目を抜く獰猛な人間たちが一瞬で大金を得たり失ったりする、無情で残酷な場所のように見える。

株式市場ってこんな危険な世界か?と思えなくもないが、これはこれで、たしかに投資の世界の一面を捉えていると思う。デイ・トレーダーなどは実際にそういうスリリングな取引をしているだろうし、リスクを取らず、少額でコツコツ投資したり優待を期待したりするのんびりとしたスタイルでも、大金を得たり失ったりすることはあるわけだから、本質的には同じだろう。とはいえこの小説の書き方は、株式市場の狂乱の空気をかなり強調しているのは確かだと思う。それが小説の世界なのだ。

本書の舞台はバブル崩壊後の1998年だが、その頃の私はまだ子供で、狂ったようなバブルの雰囲気もぜんぜん実感はない。踊ったり飲んだりするバブル期の人たちは、テレビで見たことがある。良い悪いは抜きにして、多くの人が欲望の赴くまま突っ走っていた時代だったんだろう。