杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

映画が好きか?

脚本家でも小説家でも俳優でもいいが、ワナビの特徴だと思われることの一つに、対象を自分のものにできるかどうかにアイデンティティ確立の成否がかかっている、ということがある。つまり、小説家ワナビは小説を読むことがそんなに好きなわけではなく、小説を書いて他人に承認されなくては願望が充足しない、ということ。新人賞の応募者数が文芸誌の実売部数を上回ると聞いたことがあるが、ひとえにワナビのそういう事情があるからではないか。

私は映画の学校に行ったが、では映画が好きかと問われると、いや、それほどでも…と言いたくなってしまう。一時期とはいえ、「映画の人」になることにアイデンティティ確立の成否がかかっていて、それを成就させるために必死だったからだ。それは悲壮さすら帯びていて、もはや映画が好きだからなどというレベルではなかったのである。

とはいえもちろん、映画は無数観た。実際には、当然ながら古今東西の全作品という意味では観ていない作品の方が多いのだが、めちゃくちゃ観た。ほとんど義務的に観まくった。で、本当に面白い、好きだと言える作品はほんの一握りしかないことを知った。

そんなだから、映画が好きかと聞かれると、そうだと素直に頷けないのである。