杉本純のブログ

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「社員稼業」

松下幸之助が残した言葉である。たとえ会社勤めであっても、自分自身が「社員」という事業を営む経営者をしているつもりで働けば、自ずと自主性が生まれ、創意工夫もできるようになる、といった意味のようだ。先日、企業研修を手掛ける人の話を聞く機会があり、そこでこの言葉を聞いた。

以前このブログで「自分会社」という記事を書いたが、「社員稼業」はその考え方と似ていると思う。先日うかがった話では、終身雇用時代の終焉や転職も考慮した上で「社員稼業」という言葉が使われていたので、「自分会社」とほぼ同義といっていいと思うが、松下幸之助がどういう意味で使ったかは厳密には知らない。

けれども、新卒で入った会社に長く勤め、転職も独立もするつもりがない人に、「自分会社」や「社員稼業」の考え方を説くのは無意味ではないかと私は考えている。「起業家精神」も同様で、サラリーマン根性が染みついている人がそんな精神を持てるはずがないと思う。

一方で、例えばある書籍編集者は、会社に属したい考えなど毛頭ないが、会社が築いた様々な仕組みや自分に与えられた肩書は、仕事をする上で捨てがたいほど便利なので、会社勤めを続けている、と言っていた。これはサラリーマンという立場にいることで得られるメリットを十二分に享受しようとする考えだと思う。研究に没頭したい人がメーカーに入社して大規模な設備の中でスケールの大きい研究をやるようなものか。サラリーマンである以上、思い通りになることばかりではないはずだが、したたかでいいなぁと思う。

組織に属して働くメリットといえば、上記のように、個人ではとても揃えられない設備や機器を使い、スケールの大きな仕事ができることが挙げられるだろう。組織力とチームワークを活かせるという面もある。フリーでそれをやるのは、たいていの場合、現時点では会社勤めよりも高難度だと思う。

だから、「社員稼業」の精神を持ちつつ会社勤めをしてもいいのである。大きな仕事ができるから。目的もなく働くことが問題だと思う。