杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

佐伯一麦と奈良飛鳥園

佐伯一麦『からっぽを充たす』(日本経済新聞出版社、2009年)の「その輝きをレンズで」は、東大寺二月堂のお水取りを切り口に、奈良への思いが綴られたものだ。佐伯は、テレビの企画や雑誌の原稿を書く仕事をしていた二十歳前後の頃、月に一度ほど関西に出張していたらしい。そしてその際は必ず時間を見つけて奈良を歩いたとのことである。明日香村にも足を運び、こういうところで暮らすのも悪くないと思ったそうだ。私もあの村に足を運んだ時は、住むには最高のところだなと思った。

さてこの随筆では、島村利正の小説『奈良飛鳥園』(新潮社、1980年)が紹介されている。これは、仏像などの文化財を撮影するために飛鳥園を創業した小川晴暘の生涯を描いた長編小説で、島村利正は飛鳥園に勤めたことがあったそうだ。そして佐伯は、1980年の東大寺落慶法要の際、自ら企画したテレビ番組に小川晴暘の息子の小川光三に出演してもらった縁があるとのことである。

さっそく『奈良飛鳥園』を見てみたのだが、会津八一やら志賀直哉やら、奈良にゆかりのある文人などがどんどん実名で出てきて面白い。また、小川光三が佐伯が企画した番組で取材を受けたというのはさらに興味深いことで、その番組はぜひ見てみたいものだ。