杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

中村文則「セールス・マン」

手元にあった「文藝」2011冬号は、第48回文藝賞受賞作「クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰」を掲載しているのだが、他に掲載されている小説の中に中村文則の短篇「セールス・マン」があった。中村文則っていわゆるセールス、企業での販売や営業の経験あったっけ?…だとしたら実体験を反映していて面白そうだ、と思って読みはじめたのだが、6ページしかないごく短い作品で、やはりリアリズムで書かれたものではなかった。

この小説の世界では、誰もが憂鬱とか性欲とか神経症など、内部に抱えているものを交換できる。あるいは「雑誌記者の身分」といった属性も交換可能である。家にたくさんの蜘蛛が這い回って妻と一緒に困ってしまった主人公は、引っ越すお金を稼ぐために自分が抱える「憂鬱」を「セールス」するが、話はおかしな方向へ転がっていく。。

何らかの寓意を表そうとしたのかも知れない。この小説に関する批評は一つも読んでいない。