このところ、とにかく落ち着かない。コロナ禍が再び猛威をふるっているし、他にも公私ともに心配事が尽きない。
調べ物も書き物も、時間をつくってなんとか進めているのだが、どこか「作業」になってしまっているというか、深く思惟することができなくて、手応えが小さい。他の諸事雑務が気になってしまって集中できないのだ。
しかし、それは逆に言えばまだ物書きとしての腰が据わっていない証拠なのかも知れない、と考えたりもする。もう十年以上前、私が一か月ほど入院していた時、ある編集者が、夏目漱石の『猫』のような視線で、病床の上から見える世界を描出してみたら、と言われたことがある。編集者は、病床にありながらどこか落ち着かず、軽い文章ばかり書いていた私をたしなめようとしてそう言ったのだろう。物を書くとは、そういうことだろうと思う。