杉本純のブログ

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撤退の難しさ

佐藤雅彦竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』(日本経済新聞出版社、2002年)を読んでいて、会社のエグジットストラテジー(出口戦略)について述べられている箇所が示唆に富んでいると思った。

竹中 戦争のとき、「進むよりも撤退するときの方が難しい」と作戦を立てる人が言うように、ビジネスでも同じところがあるんですよね。犠牲にしなきゃならないものがありますから。
佐藤 「終わり方が難しい」ってことですね。

会社や経営者(創業者)が事業をある程度進めた後、それをどう見切りをつけるかを決めておかないと大変なことになるだろう、ということなのだが、「終わり方」がいかに大切かは、ビジネスのみならず戦争、他にも人生のあらゆることに言えることのような気がする。

作家になる夢をいつ諦めるか。一生働き続けるつもりがない会社をいつ辞めるか。とても一生添い遂げることができそうにない結婚相手との結婚生活をいつ終わらせるか…。言わば人生の分岐点となる「決め手」をどう設定しておくか、ということだろう。強力な外的要因が我が身に及んで、それへの反応が決め手になるなら話は簡単である。親が死んで家業を継がなくてはならなくなったからもう作家の夢は諦める。働き過ぎて躰を壊したから今の会社を辞める。結婚相手が浮気をしたから別れる…。これなら話は早い。

しかし人生は、人生それ自体を左右させるような出来事がそう都合よく起きるわけではないので、多くの人は現状への不満を少なからず抱えながら、それでもちょっと我慢をし続けて生きていくのではないかと思う。それで納得と満足があるなら問題はないが、いよいよ現状にうんざりになってきて、すでに心情的には少しも執着がないのに、周囲に妙に意地を張ったり、あるいは、ここまでやってきたけどもう嫌になったから…などと言って終わらせる自分に何となく一貫性が欠ける気がしたりして、ずるずる続けてしまう、なんてこともあるだろう。

思うに、人生も仕事も、前進し続ける、ということが現状を良い方向へ変革する最善の方途だろう。現状のマイナス点だけを排除したい(終わらせたい)と思っても、そうは問屋が卸さない。外的要因が弱ければ、我慢と妥協の理屈はどこまでも貫くことができるからだ。であれば、現状を変革したいなら理屈の組み方を前進の方へ変えるしかない。別の夢か目標を見つけて作家の夢を終える。新しい仕事を見つけて今の会社を辞める。新たな人生のパートナーか心の拠り所を見つけて今の結婚を解消する…など。前進するためには、勉強と練習を重ね、目的に向かって行動し続けるしかない。やはり人生は勉強と練習と行動である。