杉本純のブログ

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十羅刹女神堂

板橋区の都立赤塚公園は、高島平に大きな公園がありますが、首都高速池袋5号線をくぐった先の徳丸、四葉、大門にも緑地が広がっています。大門の方へ進むと新大宮バイパスと首都高が重なる場所に至り、バイパスを跨ぐ歩道橋を渡ると赤塚溜池公園へ、左へ折れると大門の住宅地の方へ行くことができます。

大門の住宅地をバイパスに沿って南下すると、ほどなくだだっぴろい空き地が見えてきて、その片隅に小さな堂を見つけることができます。十羅刹女神堂。板橋区教育委員会文化財シリーズ第76集“まち博”ガイドブック 下赤塚・成増・徳丸・高島平地区編』(1994年)によると、これは寛永7年(1630)頃に諏訪神社に合祀されたものの、明治時代の神仏分離によって近くの大堂に移されたそうです。しかし大正時代に疫病が流行り、村人は十羅刹の祟りだと思ってふたたび諏訪神社に戻したのだとか。その場所が、この空き地なのだそうです。

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背後に富士塚があり、大きな樹も数本立っている空き地の中で、この十羅刹女神堂は目立たずひっそりとたたずんでいます。堂の前に立っているのは、二体の甲冑姿の羅刹石像。『岩波仏教辞典』(1989年)を参照すると、「羅刹」はインドの神話・伝説に現れる鬼神の一種で、凶暴な祭祀破壊者とされることが多いそうです。しかし法華経陀羅尼品に登場する「十羅刹女」は法華行者を守護する善神であるらしいです。

無宗教無神論者の私ですが、街歩きをしてこういうスポットを見つけ、その経緯を少しでも知ると、地域の中にある信仰の様子が窺える気がして、面白いです。

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