佐伯一麦による古井由吉の追悼文の一つが、朝日新聞4月11日(土)朝刊に掲載された。
佐伯は、古井と対談したこともあるし、朝日新聞紙上で往復書簡を交わしたこともある。古井の追悼文は複数の新聞社で出ているが、佐伯の文章が朝日に出るのは納得である。
古井の『沓子・妻隠』(新潮文庫、1979年)について、佐伯は「沓子」が芥川賞を受賞した時のエピソードを紹介している。この時は「妻隠」も候補になり、石川達三のみが「当選作なし」を主張し他の選考委員全員が古井を推したことが書かれている。その回の選考委員は瀧井孝作、丹羽文雄、石川達三、舟橋聖一、中村光夫、大岡昇平、川端康成、永井龍男、石川淳、井上靖で、築地新喜楽での選考会に石川淳と永井は欠席したようだ(『芥川賞・直木賞150回全記録』(文春ムック、2014年))。「芥川賞のすべて・のようなもの」で選評を読むと、たしかに石川達三を除く全委員が古井を推している。ただし永井は絶賛というほどではなかったようで、とはいえ「妻隠」を褒めている。
追悼文において、佐伯の古井への評価は極めて高い。