杉本純のブログ

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太田大八『だいちゃんとうみ』

福音館書店 母の友編集部『絵本作家のアトリエ1』(2012年)を読み、その中でインタビューを受けている太田大八という作家の『だいちゃんとうみ』(福音館書店、1979年)という作品が面白そうだったので、さっそく読んだ。

太田大八は1918年生まれ。父親がロシアのウラジオストクを拠点とする貿易商で、大阪・心斎橋にも支店を持っていた。生まれる時は母親が一時帰国し、大阪で誕生。その後ロシアに渡るが、二年後にロシア革命が起きて帰国する。父方の実家がある長崎に移り、海や山に囲まれた中で生活。その頃の「黄金のような日々」を描いたのが『だいちゃんとうみ』だった。『絵本作家のアトリエ』にそんなことが書いてあり、『だいちゃんとうみ』を読むべきだと私は思った。

『だいちゃんとうみ』は、田舎での一日の生活を淡々と描いたシンプルな内容。本文には「おおさきばな」という名称が出てくる。裏表紙の裏側には作品の舞台の地図が載っていて、「おおさきばな」は大村湾の大崎半島の先っぽであることが分かる。

釣りをしたり、海にもぐって貝を獲ったり、それを米と一緒に炊いて食べたり、木の上に作ったやぐらから海を眺めたり、夕方になったら家畜小屋から臭いが漂ってきたり…。

田舎ではごく当たり前の光景や遊びを書いているだけなのだが、ものすごく官能的である。「黄金の日々」と書いてある通り、まさしく官能が全開になる輝くような日々だったのが察せられる。

ちなみに『だいちゃんとうみ』には「こうちゃん」という「いとこ」が出てくるが、この人物は太田大八の父親の弟の息子で、一緒に罠を作って鳥を捕まえ、焼いて食べるなどの悪さをしたそうだ。そんな、『だいちゃんとうみ』には描かれていない交流も『絵本作家のアトリエ』に紹介されている。

太田大八はその後、十歳の時に一家で東京に戻る。1928年くらいのはずなので、『だいちゃんとうみ』を出すのはその五十年以上後のことだ。『だいちゃんとうみ』の官能の強さから、長崎での体験はよほど強烈だったんだろう。幼児期の体験はすごい。