島田雅彦『君が異端だった頃』(集英社、2019年)は島田の自伝小説だが、その第四部「文豪列伝」には安部公房が出てくる。
安部の『方舟さくら丸』について、「朝日ジャーナル」からの依頼を受けた島田が書評を書く、というエピソードである。安部は数ある書評の中で島田のを最も評価したようで、その後、島田は安部と会う機会を得る。
「新潮」が創刊一〇〇〇号記念エディションの巻頭グラビアで、新旧文学者交流の図を撮りたいといってきたのだ。遠藤周作と中沢新一、山田詠美と宇野千代、などのカップリングがある中、君は安部公房とセッティングされた。撮影は新潮社の地下二階の防災センターで行われたが、そこが近場で最もシェルターっぽい場所だったからだ。撮影が済むと、安部さんはすぐに帰ろうとしたが、奥さんに電話して家に食事の用意がないと知ると、「めし行こう」となり、神楽坂の料亭にご一緒することになった。
「新潮」創刊一〇〇〇号とは1988年5月号のことで、たしかに新旧文学者のカップリングがある。「グラビア 文学の年輪」という題で、出ているのは永井龍男と津島佑子(鎌倉文学館)、井伏鱒二と増田みず子(井伏宅)、大岡昇平と沢木耕太郎(大岡宅)、佐多稲子と中上健次(国立劇場)、宇野千代と山田詠美(宇野宅)、安部公房と島田雅彦(新潮社の地下室)、安岡章太郎と青野聰(安岡宅)、遠藤周作と中沢新一(原宿)、井上靖と宮本輝(井上宅)、丹羽文雄と髙樹のぶ子(丹羽宅)である(※カッコ内は撮影場所)。
私は島田と安部の写真を見た時、特に何とも思わなかったのだが、シェルターぽいと言えばそうだ。『方舟さくら丸』のことは誌面では触れられておらず、雑誌発売時に読んだ人はどうして新潮社の地下なんかで撮ったのだろうかと不思議に思ったかも知れない。
今から三十年以上も前の写真になるわけだが、当時島田は27歳のはずで、若くて知的でかっこいい。『君が異端だった頃』が本当の話だとすると、島田は若いころ相当にモテたと想像できるが、写真を見ると納得させられる。