杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

文学研究は不幸?

和田芳恵『暗い流れ』 に面白い箇所がある。

 第一外国語学校に受験生の夏季講座があり、私は途中から受講することにした。元一高の教授だった岡田実麿が英語の訳解を教えていた。いわゆる紳士といった風格があり、堂堂とした恰幅だった。
 教室の椅子は、五、六人がいっしょに並んで掛け、机も、それにふさわしい長めのものだった。早いものから、前にすわるので、いろんな人と隣りあわせになった。
「君、『蒲団』という小説を読んだことがあるか」
 鉄縁の度の強い眼鏡をかけた青年が私に言った。白絣の単衣をきて、くたびれた袴をはいていた。
「読んだよ。田山花袋の小説だろ」
「よく知っていたな。あのなかに出てくる女弟子横山芳子のモデル岡田美知代の兄が、口髭を生やした口を動かして、英語を訳している岡田実麿なんだ。小説に深入りして、モデルの穿鑿などにうつつを抜かすようになると、僕のような万年受験生になるよ」
 私が、ひそかに考えたように、この青年は受験慣れした、落伍者の一人であった。

岡田実麿が岡田美知代の兄だというのはWikipediaにも載っている。「一高」とは今の東大で、岡田の前任教授は夏目漱石だったようだ。

それにしても、「モデルの穿鑿などにうつつを抜かすようになると、僕のような万年受験生になるよ」というのが、面白いというか何というか。。この登場人物にはモデルがいたのか。いずれにせよ、文学研究をやると人生を棒に振る、ということだろう。文学研究をやっている私はこの先どうなるんだろう。。。