杉本純のブログ

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吉田修一と「パーク ハイアット 東京」

ANAの機内誌「翼の王国」10月号(603号)の吉田修一「空の冒険」第120回は、「ゴカンヲシゲキスルバショ」というタイトルである。

リゾート地で重要なのは五感を刺激してくれるかどうかだが、東京のど真ん中にもそういう場所があるとして、新宿の「パーク ハイアット 東京」を紹介している。

吉田は二十代で文學界新人賞を受賞し(受賞作は「最後の息子」1997年)、選考委員だった浅田彰に受賞祝いの食事に誘われて、ホテルの「ニューヨーク グリル」のメインダイニングを訪ねた。この時の経験を吉田は「“東京”を見つけた」の一言に尽きる、と書いている。

それ以降、吉田はこのホテルに事あるごとに行くようになったというので、よほど気に入ったのだろう。とはいえ、「五感を刺激する」という点で、このホテルがどこをどう刺激してくれるのかについて、吉田は読者には自分で経験してもらいたいからと言い、書いていない。ただ、「このホテルを知ることができた自分と、もし知らぬままだった自分とでは、まったく別の自分が出来上がっていただろう。/大げさに言えば、何が本物で、何が偽物なのか、その真贋を見極める基準が変わっていたのではないかとさえ思う」とべた褒めである。

新宿のパークハイアットと言えば、スカーレット・ヨハンソン主演の映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)の主人公の宿泊先として記憶している(つまらん映画だった…)。

パークハイアットが五感をどう刺激してくれるのか分からないが、ここはかなりの高級ホテルである。吉田の文を読むと、賞を獲ると人生が一変することがある、その一例を見るようだ。もちろん文學界新人賞だろうが芥川賞だろうが、獲った後が鳴かず飛ばずなら墜ちていく。