杉本純のブログ

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漱石ブランド

佐伯一麦の書いたものをあれこれ読んでいて、佐伯が岩波書店の『漱石全集』の月報26(第二十四巻、1997年)に書いた「拝啓 夏目漱石様」を読んだ。

これは佐伯から漱石へ宛てた手紙、という形を取った奇妙な書き方の随筆だが、中身は、自分は漱石の書簡を小説と同じように愛読しているとして、その中からいくつかの書簡の文句を引用したもの。佐伯は書評などでも、しばしばこういう型破りというか、風変わりな文章を書く。

さてその冒頭に、「明治の文豪に向かって手紙を書くなど、畏れ多いと逡巡する気持ちもあったのですが、」とあり、なんだか可笑しい。

「拝啓 夏目漱石様」は岩波書店編集部編『私の漱石――『漱石全集』月報精選』(岩波書店、2018年)にも収録されている。月報に載った文章を集めて一冊にされるなんて、他にそういう作家がいるかどうか知らないが、いずれにせよ漱石はれっきとした一個の強力なブランドだと思う。