杉本純のブログ

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ヘッセの毒

佐伯一麦の『月を見あげて 第三集』(河北新報出版センター、2015年)の「ヘッセの故郷」には、佐伯がヘッセの自伝小説『車輪の下』を読んで「ヘッセの毒にもろに当たってしまった」経験が書かれている。

佐伯は中学一年の時に読書感想文の課題図書で『車輪の下』を読んだが、すでに生意気な子供になっていたので、真面目に感想文を書くのが恥ずかしく提出しなかったそうだ。

けれども佐伯は「ヘッセの毒」に当たってしまった。

ヘッセ同様、大学に行かずに文学の道を志したり、書店員や電気工となったりしたことにも、その影響は否定できない。そして何より、〈事情はこうだった。つまり、十三の年から私には、自分は詩人になるか、でなければ何にもならないという一事が明らかになった〉とヘッセが「自伝素描」で書いていることを我が事のように思ったものだった。

これは、少年期の多感な時期に、藝術家の孤独な生き方に憧れを抱いたということだろう。佐伯が高校の後に大学へ行かず上京した経緯は、色んなところに色んなことが書かれていて、事実は私にはまだよく分からない。

しかし、上記のようにヘッセの影響が大きかったとすれば、佐伯はワナビめいた精神状態で自ら進んで労働者の世界へ身を投じたということになる。