杉本純のブログ

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佐伯一麦のワナビへの言葉

佐伯一麦は『榊原和夫の現代作家写真館』(公募ガイド社、1995年)に「作家をめざす君に」という随筆を寄せている。

『榊原和夫の現代作家写真館』は、現代作家五十五人の写真と、その中の複数の作家が文学志向者に贈ったメッセージを集めたものになっている。

「作家をめざす君に」はごく短い文章で、文学をやるということは世界と対峙することで、また太古から続く生命の流れに耳を澄ますことでもあると述べている。

これは実に佐伯らしいメッセージと言えるが、佐伯の小説を読んだことのないワナビにはただの精神論に見えるかも知れない。

この随筆(手紙)では「一麦」の名の由来となったゴッホの麦畑には触れているが、ゴッホの自画像のことは書かれていない。

世界と対峙すること、生命の流れに耳を澄ますこと、というのは佐伯が私小説として自画像を描くのを目指していたのと通じるように思う。そのように読めば、かなり含蓄のある文章といえるのではないだろうか。