杉本純のブログ

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映画『タバコ・ロード』を観た。

ジョン・フォードの作品ということでいつか観たいと思っていた『タバコ・ロード』(1941年)が放送されたので録画し、観た。

コールドウェルの原作で、演劇版はロングランを記録したという作品の映画版である。ぴあの『シネマクラブ 外国映画編 2002-2003』を参照すると、この映画は貧しいアメリカを描いているという点から戦後しばらく輸出されず、日本では1988年に、製作後47年を経てようやく封切られたとのこと。どうしてその時期に封切られたのか、日本側にどんなニーズがあったのかは分からないが、製作後47年経って封切られる映画があった、という事実だけでも当時の日本人の映画への関心の高さが窺えるような気がする。

さてこの映画、舞台は1930年代のジョージア州で、プア・ホワイトという、社会の発展に取り残された白人貧困層の荒廃した田舎での暮らしを描いたドタバタ喜劇なのだが、とにかくただ喚き散らすだけで噛み合わないかまびすしい会話と、感情のおもむくまま喧嘩したり物を盗んだりする登場人物たちを見ていて、ちょっと不快感を抱かざるを得なかった。喜劇だし、きっと貧者たちの実態をいくらか戯画化して表現しているのだろう。しかしおよそ共感しにくいことばかりで、こういう人たちを描いて何を訴えようとしていたのか…私にはキャッチできなかった。

クライマックスで主人公は、地代が払えず救貧農場に送り込まれそうになるが、救いの手が差し伸べられ送られずに済むものの、かといっていっとき感謝の念を抱きはするが精出して働き出そうとするでもない。変わらず怠惰な生活を続けていずれ本当に救貧農場に送り込まれるんだろうと想像させる。つまり、救いがたい愚かな農民を喜劇的に描きたかったのかも知れない。ただ、どう観ても面白い作品ではなかった。

撮影、美術、俳優、音楽などどれも一級と言えるクオリティで、それだけに、話の内容との落差にひどく戸惑ってしまった感じ。もちろん、技術的には優れた映画でもストーリーが下らなければ映画としてはまず駄目なわけで、ちょっと私にはいただけない映画だった。