杉本純のブログ

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物書きと「職業」

川口則弘の「作家になりやすい「職業」はなにか?」(「文學界」2018年12月号特集「書くことを「仕事」にする」)がやたら面白く、勉強にもなった。これは直木賞芥川賞の受賞者の職業を紹介したものだが、新聞記者の受賞者として山崎豊子司馬遼太郎、それから記者ではないが松本清張に触れていないのは、説明不要だからだろう。

私は作家のデビュー時の職業をぜんぶ調べてみようかと考えたことがあったが、それは無謀そうだと思ったのと、恐らく他で誰かがやっているはずだと思ったのでやめた。調べたいと思ったのは、自分と同じような出版・印刷系のサラリーマンから作家になった人のことを知りたいと考えたからだが、川口の記事ではそれも含んだ広い視点から実例が多数紹介されている。

ちなみに芥川賞を二回逃した佐伯一麦は、「静かな熱」でかわさき文学賞コンクール入選、「木を接ぐ」で「海燕」新人文学賞受賞を果たしたが、その時はいずれも電気工だった。「ショート・サーキット」で野間文芸新人賞を受賞した時は古河市の電気工場で配電制御盤配線工をしていた。

ところで「作家になりやすい「職業」はなにか?」の冒頭には、直木賞芥川賞創設当時の文士が貧乏が付きもので、安定した収入がいかにありがたかったか、と書かれているが、この箇所は考えさせられた。「作家になりやすい「職業」」という企画自体が、物書きがまずは二足の草鞋から始まることを示している(ごく一握りのスターを除いて)。