杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

北方謙三『明るい街へ』

北方謙三『明るい街へ』(集英社文庫、1999年)は北方先生の初期作品を収めた短編集である。

先生は同人誌出身で、若い頃に大真面目に“文学”を志向していた。今でこそ中国の歴史大長編などを書く作家として認知されているが、大学生の頃は、同人雑誌に純文学作品を投稿していた、こてこての文学青年だった。

その頃の作品を掲載したのが本アンソロジーで、実はあまり面白くない作品ばかりながら、何とかして自分の文章を紡ぎ出そうと懊悩している様子が窺えて、好感が持てる。

学生運動の動乱の中、暴力沙汰に巻き込まれつつも、自分の生きる道をひたむきに模索する青年を描いた表題作ほか、四編を収録。いわゆる私小説ではない。しかし、主人公は、法学部で学んでいたり、学生運動に身を入れているなど、いくらか北方先生自身が投影されていることは間違いない。

その後、北方先生は純文学からハードボイルドに転じた。「自分は純文学には向いていない」という現実を受け入れるのは、とてつもなく苦しいことだったそうだ。それでも、ハードボイルドの『逃がれの街』などがヒットして、映画化もされて、以降、人気作家の道を驀進していくことになる。『逃がれの街』は傑作。