杉本純のブログ

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川上眉山の墓

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森鷗外の小説『雁』の冒頭に自殺した川上眉山(1869-1908)のことが書かれている。

あのとうとう窮境に陥つて悲惨の最期を遂げた文士の川上である。

小説の語り手と同じ下宿にいた「岡田」という人物が川上に似ていた、という下りである。
川上の写真はネットでも見ることができるが、端正で知的。「岡田」もこういう顔だったのかと思うが、私はもっと精悍な感じを思い描いていた(ただし岡田は体格では川上に優っていた、とある)。

さて、私の職場から歩いて行けるところに川上の墓がある。文京区の吉祥寺という寺で、この寺と川上についてはすでにネットでいろんな人がいろいろと書いている。中でも一番コンパクトにまとめてあるのは大塚英良氏の『文学者掃苔録』ではないかと思う。

しかし作家だろうが何だろうが、自死する人にはちょっと共感はできない。
永井荷風の小説を映画化した『濹東綺譚』には、荷風に対し、芥川が自殺したんだからあなたも自殺しなさい、と言ってくる人が出てくるが、文士は自殺しなくてはならないという安直なイメージの押しつけである。しかし芥川などは自殺したことが今なお人気がある要因の一つになっていると思う。川上は自殺しても今ではほぼ忘れられているのだから悲しいものだ。

それとは別に、墓石の側面に「硯友社同人達」とあるのが何だか感慨深い。私もかつて文学同人に属していたが、同人の仲間同士は、精神的に深いつながりになる。