杉本純のブログ

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高島平が出てくる小説

四條識 (しじょう・しき)は、1980年生まれ、東京出身である。日本工学院専門学校を経て、2004年よりforsevenoneeightone(フォーセブンワンエイトワンと読むようだ)というバンドで活動していたが、2014年に解散。2017年1月に発行された『蚕録』で小説家デビューをした。

とはいえ、『蚕録』は版元が文芸社であり、まるで文章が整えられていないところからも、恐らく編集者がほぼ介在しなかった自費出版だと思われる。

しかし、どうやら『蚕録』は私小説であるらしい。内容の善し悪しとか、どれだけ出版社に金を払ったかとかは別として、こういう、ある種の体を張った表現行為、いいなと思う。

四條はどうやら板橋区の高島平出身らしく、これが私小説ならば、必ずや高島平の場面が出てくるだろうと思った。小説には「中島摩耶に捧げる」という献詞があり、作中で死んでしまうヒロインの名も摩耶である。主人公は四條祐介という。

作中には「団地」とか「赤塚公園」とかいう記述が出てきて、主人公に思いを寄せる女のアルバイト先は「トミコシ会館の中華料理屋王華」とある。これらは実在している。
しかし高島平近辺のことが言及されるのはこれくらいで、その他に首都圏の各地でいろんなことが起こるが、全体に詩的で淡い印象の述懐が続き、物語の筋が掴みづらい。

それにしても『蚕録』はなんと読むのだろう。「さんろく」だろうか、「かいころく」だろうか。四條識というペンネームは「非常識」に由来している、と作中本文に書いてあり、ダジャレを言う趣味があるのではないかと思われる節がある。