杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

「新種の老人」

今後増えるはず 遠山正道『新種の老人 とーやまの思考と暮らし』(産業編集センター、2022年)を読みました。 本書は仕事の関係で手に取ったもので、著者の遠山さんについてはそれまで知りませんでした。「Soup Stock Tokyo」を開業した人、と聞いて実業家で…

お金のはなし17 不趨浮利

物事は長期で考える 「不趨浮利」は「ふすうふり」と読みます。住友電工のホームページに出ていた経営理念です。 「浮利」とは、正しくないやり方で得た利益のことで、平たく言えば「あぶく銭」です。「不趨」は「走らない・追いかけない」といった意味で、…

永井玲衣『水中の哲学者たち』

「人それぞれ」は言わない 永井玲衣『水中の哲学者たち』(晶文社、2021年)を読みました。 哲学的なテーマについて、数人がファシリテーターと語り合う「哲学対話」。本書は、哲学対話のファシリテーターをしている著者による哲学エッセイです。 私は哲学に…

小林哲朗『ドローン鳥瞰写真集 住宅街・団地・商店街』

能書きなし 小林哲朗『ドローン鳥瞰写真集 住宅街・団地・商店街』(玄光社、2017年)を読みました。 以前、同じ著者の『夜の絶景写真 工場夜景編』(インプレス、2016年)を読み、それが面白かったこともあり、本書も手に取りました。 余計な能書きは一切な…

荒昌史『ネイバーフッドデザイン』

街を考える 荒昌史『ネイバーフッドデザイン』(英治出版、2022年)を読みました。 近所(neighborhood)に住む者同士のゆるやかなつながりを育むことで、空き家や防災、教育や雇用など、日本の地域社会(主に都市部)が抱えるさまざまな課題を解決する力と…

篠山紀信『作家の仕事場』

面白い一冊 篠山紀信『作家の仕事場』(新潮社、1986年)を読みました。よくある作家と書斎の写真集で、「小説新潮」1979年新年号から1984年12月号まで連載した「日本の作家」シリーズを再構成したものです。背表紙を見ると、定価5,000円とあります。高価。 …

蔵書始末記番外篇 本棚

虎の威を借る狐 蔵書の大量処分の一環で、長年使った本棚を三台手放しました。三台も手放すことができたのは我ながら驚きで、処分量がそれだけ膨大だということの証左といえるでしょう。 蔵書とともに本棚のまた、私のちっぽけな自尊心を満足させるための物…

『バビロン大富豪の教え』

人間万事塞翁が馬 先日から読んでいたジョージ・S・クレイソン原作の漫画『バビロン大富豪の教え』(漫画:坂野旭、翻訳協力:斎藤慎子、文響社、2019年)を読了しました。 先日もこのブログに書きましたが、私が本書を手に取った目的は、本書の内容をお金に…

ギバーとテイカー

縁を切るべき人 美輪明宏さんが以前、「人に与えるようになると、力はどんどん湧いてくる」と、たしか『人生ノート』(パルコ、1998年)か『天声美語』(講談社、2000年)に書いていました。 最近、アダム・グラントというアメリカの心理学者が書いた『GIVE&…

蔵書始末記7 『ランボー詩集』

青春の思い出 処分することにした本の思い出を書く「蔵書始末記」。今回は『ランボー詩集』(堀口大學訳、新潮文庫、1960年改版)です。 本書を最初に読んだのは大学生の頃で、当時の私は藝術を通して人生の真理を掴みたいという思いの強い、文学青年風のイ…

工場夜景

本業をやり、発信も続ける 小林哲朗『夜の絶景写真 工場夜景編』(インプレス、2016年)を読みました。元々、巨大建造物には異様な魅力を感じていて、鉄塔とか橋とか、引き込まれますし、工場も好きでした。東海道新幹線の線路沿いに建つ工場はいつ見ても壮…

人生と生活の「二大悪」

時間術の基本 先日からじっくり読んでいます。築山節『脳から変えるダメな自分』(NHK出版、2009年)。築山先生が、脳神経外科医として外来で患者から受けた相談を元に、問題の捉え方と解決の仕方について述べた本です。実際に起きている問題を元に話してい…

お金のはなし16 「より良きところに住め」

「黄金を増やすための七つの道具」 ジョージ・S・クレイソン原作の漫画『バビロン大富豪の教え』(漫画:坂野旭、翻訳協力:斎藤慎子、文響社、2019年)を読んでいます。 両学長のようつべチャンネルをたまに見ていますが、その中で本書のことを知り、面白そ…

「足るを知る」

基本を着実にこなす 先日から読んでいる築山節『脳から変えるダメな自分』(NHK出版、2009年)。このブログで、「ネガティブ思考に陥りやすい」の章に書かれていたことを先日記事にしましたが、同じ章の中にもう一つ、大いに頷いた箇所がありました。 「『着…

珍現象

「会社を休み、会社の仕事をする」 世界には、人間の理解の及ばない、科学では解き明かせない事象が多くあります。そういうのはしばしば「怪奇現象」と言われ、人々は珍しそうに眺めます。 しかし、中にはその人間がおこなう怪奇現象があります。しかも驚く…

感情の安全地帯

低いハードルを確実に越える 築山節『脳から変えるダメな自分』(NHK出版、2009年)を読んでいます。この著者による、生活習慣と脳に関する本を過去に数冊読んで面白かったので、本書も手に取りました。 タイトルの「ダメな自分」は「自分の中のダメな部分」…

書店への訪問営業

同人誌と模索舎の思い出 宮後優子『ひとり出版入門』(よはく舎、2022年)を読んでいます。本書は「つくって売るということ」とサブタイトルにもある通り、自分がつくりたい本を、同人誌ではなくあくまで出版ビジネスという形でやりたい(やっている)人に向…

2023年に読んだ本

収穫はモリナガアメの漫画 Twitterでフォローしている作家が、今年の何冊目、といった書き方で2023年に読了した本を紹介していました。 作家なので膨大な量を読んでいるかと思いきや、意外にも現時点でまだ十冊にも達していない模様です。まぁ速読や冊数が大…

芥川賞と直木賞

ある書評家がnoteで芥川賞と直木賞を紹介していて、「2023年前期」の受賞作を予想していました。その記事がTwitterで「文芸オタク以外には意外と知られていない、『芥川賞・直木賞ってそもそも何?どういう作家に贈られる賞なの?』という解説を書きました!…

こじらせワナビの心情と行動

もはや趣味というより… モリナガアメ『かんもくって何なの!?――しゃべれない日々を抜け出た私』(合同出版、2017年)を読みました。 国内であまり知られていない「場面緘黙症」を患う著者が、生きづらい人生をもがきながら生きてきた記録です。記録ではあるも…

ドーパミンとの付き合い方

油断は禁物 人間の脳は、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンという物質の分泌により、幸福感を覚えるそうです。そのことから、この三つの物質は「3大幸福物質」と呼ばれているそうです。 セロトニンは、爽やかであったり安らかな気持ちになったりしたとき…

松本清張「地方紙を買う女」

1957年の作品 松本清張の短篇「地方紙を買う女」(『松本清張短編全集06 青春の彷徨』(光文社文庫、2009年)所収)を読みました。 本書の清張自身による「あとがき」を読むと、本作の初出について「『小説新潮』に載せたと思う」と書いてあります。手元の赤…

バルザック「ゴプセック」

ストーリーよりキャラがすごい バルザックの短篇「ゴプセック」(『ゴプセック・毬打つ猫の店』(芳川泰久訳、岩波文庫、2009年)所収)を読みました。 本作は1830年に他の短篇とともに刊行された、「人間喜劇」の「私生活情景」に含まれている作品です。も…

「赤羽刀の人」

少し誇らしかった 昨年、赤羽刀についてあれこれ調べ物をしていました。 県外から書籍を取り寄せたり、都内の図書館のレファレンスに質問をして資料を紹介してもらったりして、わずかではありますが赤羽刀について理解しました。 そのこぼれ話で、私としては…

板橋区立郷土資料館恒例の「マユダマ飾り」

豊作の模擬実演 板橋区立郷土資料館の古民家で1月7日から15日まで、恒例の行事「マユダマ飾り」が行われています。 「マユダマ飾り」とは1月15日の小正月のお飾りで、農作物の豊作や養蚕なら繭の豊産を願って実施される「予祝行事」の一つです。予祝行事は、…

蔵書始末記6 『全集黒澤明』

映画に血道を上げた青春の記憶 昨年末から続けている蔵書整理。その際にお別れすることにした本の思い出を記す不定期連載「蔵書始末記」、今回は岩波書店の『全集黒澤明』です。 本書はタイトルの通り、映画監督・黒澤明の脚本全集です。監督デビュー作であ…

担保としての「実直さと才能」

古今東西にわたり価値を持つ バルザックの短篇「ゴプセック」(『ゴプセック・毬打つ猫の店』(芳川泰久訳、岩波文庫、2009年)所収)を読んでいます。その前半に、主人公である高利貸のゴプセックの、いわゆる「人的資本」に関する考えが語られている箇所が…

場面緘黙と私

静かな衝撃 モリナガアメ『話せない私研究――大人になってわかった場面緘黙との付き合い方』(合同出版、2020年)を読みました。 久しぶりに、これは俺のことが書かれた本じゃないか…!と思った一冊でした。主人公と私の精神状態が重なっていただけでなく、主…

蔵書始末記5 『批評の解剖』

「叢書・ウニベルシタス」最初の一冊 映画学校の学生だった頃、私は川崎市のある古書店で、客だった文藝評論家と知り合いになりました。当時の私はすでに映画の道を諦め、物書きの道に進もうと決めていて、知り合いになったその文藝評論家に文学のことをあれ…

変人の平和

捨て身で生きる モリナガアメ『話せない私研究――大人になってわかった場面緘黙との付き合い方』(合同出版、2020年)は、場面緘黙という一種の障害を持つ著者が、理解者が少ない中でその障害といかにうまく付き合っていくかを模索し奮闘する経緯を描いた漫画…