杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

適応障害の当事者と家族

広く読まれるべき本 精神科医の浅井逸郎監修『心のお医者さんに聞いてみよう わが子、夫、妻…。大切な家族が「適応障害」と診断されたとき読む本』(大和出版、2022年)を読んでいます。 かつて、「適応障害」だと診断され一か月ほど仕事を休んだ人が知人に…

聖書の物語世界

ストーリーとビジュアル サリー・タグホルム、アンドレア・ミルズ『ビジュアル版 はじめての聖書物語』(山崎正浩訳、創元社、2022年)を読んでいます。 世界で最も広く読まれているといわれる「聖書」ですが、私の大学時代の先生は以前、最もよくできた小説…

「人間喜劇」の登場人物

典型的人物たち エンツォ・オルランディ編、山本有幸訳『カラー版 世界の文豪叢書 バルザック』(評論社、1976年)は、いわばバルザックと小説作品のガイドブックのような一冊です。図書館で見つけ、借りてきました。 読んだのは「『人間喜劇』の登場人物」…

宇佐見りん『かか』

理解できない思いと行動 宇佐見りん『かか』(河出書房新社、2019年)を読みました。 良かったです。「かか(母)」への深い愛憎を胸に、19歳の浪人生うーちゃんは、ほとんど崩壊している家族を離れ、孤独で苦しい熊野行きを敢行する。うーちゃんの思いと行…

セロトニンと腸

腸活は大事 赤羽根拓弥監修『カラダのすべてを肛門は知っている』(カンゼン、2023年)のことは先日もこのブログで取り上げましたが、この本、面白いです。日常生活では知人とも家族間でもあまり話題にされることがないであろう肛門について、一つの話題につ…

職業を描く

私はバルザックの小説をよく読みます。ライフワークのように、「人間喜劇」の作品を一つずつ読んでいるのです。バルザックの小説世界の面白さとは何だろうか、と考えてみたら、その一つは多分、フランス19世紀の社会に存在していた「職業」を描き出している…

「かか」と「うーちゃん」

宇佐見りん『かか』(河出書房新社、2019年)は、「うーちゃん」という主人公であり語り手でもある女性が、母親である「かか」への複雑な愛情を吐露する一人称小説です。 父である「とと」が浮気し、発狂してしまった「かか」を「うーちゃん」は深く愛してお…

青木まりこ現象

発端は「本の雑誌」への投稿 図書館で見かけて手に取った、赤羽根拓弥監修『カラダのすべてを肛門は知っている』(カンゼン、2023年)。健康にはそれなりに気を使っているので、その一環で読んでみようと思ったのです。 興味のあるところだけ拾い読みしまし…

坂口博信と植松伸夫

良い「体育会系」 自宅の所蔵品整理をしていて、かつて買った「FINAL FANTASY Ⅵ」のサウンドトラックを捨てました。これは3枚組のCDですが、すでにCDプレイヤーは我が家にありませんし、3枚のうちの1枚を紛失していたためもう売ることもできず、単に捨てるこ…

ゲーム遍歴3 ゲームボーイ2

一日30分まで ゲームボーイを手に入れた経緯は前回書いた通りです。私の親は、ゲーム機を買うことを許してくれたとはいえ、依然として保守的で厳しかったこともあり(この「厳しい」という表現は、実はあまり適切とはいえない面もあります。ある意味では極め…

板橋区立郷土資料館 古民家年中行事 ヒナマツリ

いつものことながら、華やか 2月18日から板橋区立郷土資料館の古民家で年中行事「ヒナマツリ」を開催しています。4月2日まで。 このイベントのことは毎年のように当ブログで記事にしているので、背景などは詳しく書かないことにします。毎度のことながら、華…

ゲーム遍歴2 ゲームボーイ1

念願のゲーム機 「わが闘争」ならぬ「わが遊興」ということで、人生におけるゲームとの関わりを振り返る不定期連載「ゲーム遍歴」。第2回は任天堂の携帯ゲーム機ゲームボーイにまつわる思い出を書きます。 これが発売されたのは、Wikipediaを参照すると1989…

着眼大局着手小局

高い目標でなくとも… 以前ある経営者にインタビューをした際、その経営者が会社経営で重視している言葉として聞きました。 事を成そうとするなら、目標を高く持ち、それを達成するための小さな行動を日々着実に実行することが大切、という意味です。いい言葉…

大河内昭爾のすれ違い

滋味あるエッセイ集『落葉の坂道』 一昨日、このブログで記事にした日本文藝家協会編『ベスト・エッセイ2002 落葉の坂道』(光村図書、2002年)。佐伯一麦の「川の土手の光景」は味わいがありましたが、他にも拾い読みをしてみるかと思い、三浦哲郎「落葉の…

ドーパミンと稼ぐ力

人間、ドーパミンとはうまく付き合っていかなくてはならないと思います。お酒やギャンブル、恋愛など、ドーパミンが出る行為に対し中毒になりやすい人は、それによって心身の健康や人間関係を壊さないよう深く注意するべきでしょう。 しかし、ドーパミンが出…

志賀直哉と佐伯一麦

私小説の議論 日本文藝家協会編『ベスト・エッセイ2002 落葉の坂道』(光村図書、2002年)は、作家77人の短いエッセイを集めたもので(77篇)、表題作は三浦哲郎のもの。解説はありませんが、普通に考えて、2002年に発表されたエッセイから選りすぐった77作…

自分の頭で考える。

かつては年長者といると落ち着いた 阿部浩一『きまじめでやさしい弱者のための「独立・起業」読本』(インプレス、2021年)を読みました。 「独立」「起業」というキーワードに興味があったため手に取った本でしたが、起業ノウハウについてはあまり触れられ…

我執

自己絶対視 「当店こだわりの味」などの表現はよく見かけますが、この「こだわり」という言葉の本来の意味には、肯定的なニュアンスは無いのだそうです。最近知りました。 細かいところにまで気を使う、という意味は、手元の辞書(学研)によると新しい言い…

佐伯一麦と佐藤厚志

「先輩作家の背中」 佐藤厚志の芥川賞受賞作『荒地の家族』はまだ読んでいませんが、「新潮」3月号の佐伯一麦による書評「凝滞していた時間、動き始めた時間」と、「文學界」3月号の佐藤による特別エッセイ「先輩作家の背中」を読みました。 「凝滞していた…

津田彷徨『ネット小説家になろうクロニクル』

攻略本小説 津田彷徨『ネット小説家になろうクロニクル 1 立志編』(星海社、2016年)を読みました。 鈴木輝一郎先生がTwitterで、デビューしたいならこの小説に書いてあることくらいはしなきゃな、などと書いていたのを見たのがきっかけで手に取った一冊で…

アイドルワナビ

大切なのは、夢が破れた後 Eテレ「ねほりんぱほりん」。今シーズンも楽しく見ています。 2月3日の放送は「元K-POPアイドル練習生」で、日本人女性と韓国人男性が登場し、ブタの人形で放送されていました。 私は流行に疎く、K-POPについてもほぼ知りません。…

「かか弁」

何らかの発達障害? 宇佐見りん『かか』(河出書房新社、2019年)を読んでいます。 本作は第56回文藝賞受賞作で、遠野遥「改良」との同時受賞でした。また本作は第33回三島由紀夫賞を受賞しており、当時21歳の宇佐見は同賞の最年少受賞者になりました。ずっ…

ひとり出版

原点回帰 宮後優子『ひとり出版入門』(よはく舎、2022年)を読みました。 内容は、タイトルの通り一人で出版事業を始め、継続していくことを目指している人に向けた入門的なノウハウを伝えるもの。著者は個人出版社・ギャラリー「Book&Design」を営む編集者…

読書珍事

三冊を同日に読了 もう長いこと読書人生を続けているので、それなりにいろんな体験をしています。笑ったり泣いたりといった読書体験もさまざまですが、本との出会いや別れといった「本との縁」についても、いろんな体験をしてきました。 しかし、今回は今ま…

漫画の名言

ようつべで一種の自己啓発系動画を見ていたら、ある人が、名言といえる台詞は漫画にもよく出てくるが、漫画であるというだけで一段下のように見られることがあるけれど、そんなことはない、と話していました。 その人が例に挙げていたのは『スラムダンク』の…

蔵書始末記番外篇 『第三の男』サウンドトラック

アントン・カラスの名曲 今回の蔵書始末記番外篇は、本ではありません。1949年の映画『第三の男』のサウンドトラック(1999年)です。 映画公開50周年の記念盤のようで、パッケージに函がついています。このサントラを買ったのは恐らく学生時代。もう二十年…

ゲーム遍歴1

ゲームを楽しむのは約二十年ぶり 最近はサンドボックス型ゲームの「マインクラフト」をよくやっています。目的を定め、それを達成するためにマインしたり、クラフトしたりする過程が楽しく、やり遂げるとそれなりの充実感があります。自分の拠点を構え、増改…

佐伯一麦と色川武大

古河の工場で読まれた『狂人日記』 田畑書店編集部編『色川武大という生き方』(田畑書店、2021年)は、『色川武大 阿佐田哲也全集』全16巻(福武書店、1991~1993年)の月報と解題の一部をまとめた一冊です。その中に、佐伯一麦による「『狂人日記』と私」…

佐伯一麦と中上健次2

中上健次の「ショート・サーキット」評 『中上健次エッセイ撰集[文学・芸能篇]』(恒文社21、2002年)に、佐伯一麦の「ショート・サーキット」の書評が載っています。初出は産経新聞1990年9月10日夕刊なので、「ショート・サーキット」が同年の「海燕」4月…

板橋区制施行90周年記念事業「いたばしの歴史展」

高島平図書館1階コミュニティスペースで1月17日から「板橋区制施行90周年記念事業『いたばしの歴史展』」が開催されています。 板橋区立公文書館の写真と高島平図書館の所蔵資料で、高島平地域を中心に区制の歴史を紹介しています。中身を写真とともに紹介し…