杉本純のブログ

本を読む。街を見る。調べて書く。

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

世界は精密、世間は粗雑

最近、漠然と感じること。世界はあくまで精密にできているが、文明や社会はいい加減で、粗雑ですらある。 人間は人間同士で集まり、組織を形成し、ルールや習慣を使って運用する。しかしそのルールは巨細にわたり厳密に適用されてなどおらず、習慣もまた、一…

小説集『藝術青年』

アマゾンで販売中です。 小説集『藝術青年』 映画を学んだ青年は、いっぱしの藝術家になりたいと願いつつ、その方途すら見出せぬまま現実を虚しく漂う。何者かになりたい人=ワナビの心象を描いた短篇集。 藝術青年 作者:杉本純 Amazon

独創で勝負しなくていい

「標準クラス」の作品 『個性を捨てろ!型にはまれ!』(大和書房、2006年)は、漫画家の三田紀房先生による一種の自己啓発書です。その中に、「食える」漫画家と「食えない」漫画家の違いについて書かれている箇所があります。両者は今では完全に二分されて…

西村賢太と島田雅彦

ホテトルを奢る約束 先日、このブログに西村賢太『一私小説書きの日乗 野性の章』(KADOKAWA、2014年)の2013年12月28日の記録について書きましたが、実はその前日の記録も興味深いものです。 12月27日は雑誌「新潮」の忘年会が「かに道楽」で行われたようで…

個性も一つの型 三田紀房『個性を捨てろ!型にはまれ!』(大和書房、2006年)を読んでいます。内容はタイトルの通り、成功したいなら自分の個性など捨て、型にはまりなさい、というもの。三田先生が『ドラゴン桜』の作者であることを思うと、なるほどと思え…

佐伯一麦と西村賢太6

「滋味深し」 西村賢太『一私小説書きの日乗 野性の章』(KADOKAWA、2014年)の2013年12月28日の記録を見ると、西村が佐伯一麦の長篇『渡良瀬』を読んだことが分かります。 佐伯一麦氏の最新刊『渡良瀬』(岩波書店)を読み始める。二十年前に『海燕』誌に連…

首位陥落

現代作家の知名度を物語る 私はこのブログをスマホアプリでも管理しています。アプリでは記事下に「注目記事」として、このブログの人気の記事が五つ掲載されています。PCのブラウザ上の管理ページでは人気記事がアクセス元のサイトごとに分析されており、総…

トラップ、パス、ドリブル

コミュニケーションの科学 吉田尚記『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版、2015年)は、他人とのコミュニケーションをゲームと捉え、「気まずさ」という敵を倒すための様々な技術を紹介する本。 その中に会話の技術を説いているところがあり…

中流危機

従来のシステムが完成していた? 9月18日に放送されたNHKスペシャル「“中流危機”を越えて「第1回 企業依存を抜け出せるか」」は、いろいろと考えさせられる内容でした。 日本は世帯所得の中央値がこの四半世紀で約130万円減少し、所得中間層(中流)の人々が…

歴史はジグソーパズル

ナチスのユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」に関する定説の正当性をめぐる、イギリス人作家デイヴィッド・アーヴィングとアメリカ人歴史学者デボラ・E・リップシュタットの法廷闘争に関するテレビ番組を見ました。 私は、専門性などは少しも持ち合わせていま…

出版事業は文化事業

う~む…いろいろと、考えさせられる記事です。 特に、『漫画編集者』の文章が引用されているあたり。 《敗北宣言に聞こえるかもしれませんが、出版業を成り立たせることって、もしかしたらかなりむずかしいのでは?と思ったりもします。本業を別に持っている…

近代イングランドのエステイト関連市場

バルザック『農民』が思い浮かぶ… 高橋裕一「研究ノート 一七世紀末期イングランドに見る土地関連市場の一側面――ビジネス・エイジェンシーとしてのコーヒーハウス――」(「史学」第九〇巻第二・三号抜刷、2022年)を、著者からいただいて読みました。 著者か…

レファレンスは探偵

福本友美子作、たしろちさと画『図書館のふしぎな時間』(玉川大学出版部、2019年)を読みました。私は図書館勤務のレファレンス係を主人公にした推理小説を書いたことがあったため、この本のタイトルを見た時、自分が書いた作品との類似性を感じて手に取り…

ブログをやって良かったこと

上位3%に入った ブログを続けられる人はけっこう少ないらしいです。2009年に行われた総務省の調査では日本のブログの継続率についての調査が行われていて、開設1年後の継続率は30%、2年後だと10%、そして3年後だとわずか3%と、1年経つごとに約三分の一に…

お金のはなし14 「三つの資本」

大切なのは健康と人間関係 あるネット記事で、人間の幸福には「三つの資本」が関わっていると言われていました。「三つの資本」とは、金融資産(お金)、人的資本(能力や健康など)、社会資本(人間関係など)のこと。当人の幸福度は、各資本がそれぞれどれ…

コツコツドカン

結実もあれば崩壊も 三田紀房『インベスターZ』10巻(講談社、2015年)はFXによる投資対決が描かれています。FXとは外国為替証拠金取引のことで、円とドルを交換するなど、要するに通貨を交換して行う取引です。久しく名のみ聞いていただけで知らなかったで…

情動感染と自己開示

感情は伝染する。は本当らしい SixTONESがMCをしているEテレの「バリューの真実」をたまに見ています。先日は「トリセツ 気まずい対処法」というタイトルで、言葉の通り、学校などで他人と気まずい雰囲気になった時の心理について、解説と対処法が面白く紹介…

ゴダール雑感

語り継がれることはないと思う ジャン=リュック・ゴダールが死にました。91歳。久しく名を聞かなかった監督でした。ジャン=ポール・ベルモンドが死んだのが昨年で、ヌーベルバーグの代名詞と思っている『勝手にしやがれ』の主演に続き、監督もいなくなりま…

時間は命

三田紀房『インベスターZ』の10巻(講談社、2015年)に「時間とは、命」と書かれていました。 主人公の知人の女子中学生の姉が、DMMへの就職を決め、その理由と背景を友人に話す場面。自分は資本家、言い換えると投資家になると言い、20歳代の自分たちが社会…

図書館にて

小説の創作に取り組んでいます。時間ができた日は図書館に行って、一隅の勉強席を使い、ノートを開いて創作ノートに小説の設定、すなわち小説世界について書き込んでいます。 小説を「書く」段階になると、恐らく自宅で原稿に向かって黙々と書くのが良いので…

『一私小説書きの日乗』シリーズ各書の範囲

西村賢太の『一私小説書きの日乗』シリーズが西村の人生をどれほど記録しているのかが気になり、まとめてみました。ポイントは各書の記録の範囲です。 タイトル 出版社 発行年月 期間 備考 『一私小説書きの日乗』 文藝春秋 2013年3月 2011.3.7-2012.5.27 の…

漫画家になるのは難しい

ファーストペンギン 三田紀房『インベスターZ』は巻末に特別記事が掲載されています。あまり読まないのですが、9巻(講談社、2015年)は三田先生と楽天の三木谷社長の対談「ビジネスの荒海を泳ぎきる方法。」が載っていて、面白そうだったので読みました。 …

創作雑記28 「書けない」

日本映画学校では実習制作を多く体験しました。制作の際、学生たちはそれぞれシナリオを書いてゼミ内で回し読みをし、映画化したい作品を投票形式で決めていました。 中にはシナリオを出さない学生がいて、ゼミ講師が理由を問うと、多くの学生が「書けない」…

魂はアナログ、手段はデジタル

佐伯一麦と鐸木能光 佐伯一麦『Nさんの机で』(田畑書店、2022年)は、佐伯が身の回りの「もの」について、自伝的要素を散りばめながら語っている随筆集です。その中の「カメラ」という章に、作家の鐸木能光(たくき・よしみつ)との関係について書かれてい…

佐伯一麦と西村賢太5

「命懸けで小説を書いてる」 西村賢太がフジテレビ「ボクらの時代」に出演し、佐伯一麦に言及したという情報を入手したので、検索したらdailymotionにアップされていました。 調べると、2013年2月10日に放送された回で、共演は玉袋筋太郎、伊集院光です。収…

カオス理論

書いて書いて書きまくる Eテレの「笑わない数学」が面白く、いつも見ています。芸人のパンサー尾形貴弘が真面目な顔で数学の難問について説明する内容ですが、素人の私でもさわりは分かったと思えるくらい分かりやすいです。 先日のテーマは「カオス理論」で…

たたら製鉄とものづくり

「ものづくりの神髄」 NHKスペシャル「玉鋼に挑む ~日本刀を生み出す奇跡の鉄~」を観ました。 美術品として世界に多くの愛好家がいる日本刀の材料である鉄・玉鋼(たまはがね)。「たたら製鉄」という、世界で島根県の奥出雲にしかない製造法による製鉄の…

映画『さかなのこ』を観た。

さかなクンが人気者になるまで 映画館で映画『さかなのこ』を観ました。新作の映画を観るのはけっこう久しぶりでした。 タレントのさかなクンの自叙伝『さかなクンの一魚一会』(講談社、2016年)を映画化したもので、主演は女優の「のん」。監督・脚本は沖…

床屋政談

一般人の政治言説はほぼ床屋レベル 西村賢太の随筆集『一私小説書きの独語』(角川文庫、2016年)を読んでいて、面白い箇所がありました。「まだ時期尚早」というタイトルの、橋下徹総理の誕生を支持するか、というテーマに対し寄稿した「週刊文春」2012年5…

社内報の世界

昔も今もさほど変わらない 若竹七海『ぼくのミステリな日常』(創元推理文庫、1996年)を読んでいます。 主人公は真田建設コンサルタントという会社に勤める、作者と同名の若竹七海という女性で、つまらないので会社を辞めようと思っていた時、社内報を創刊…